無題どきゅめんと


「アローアロー? こちら横島。起きてるか? 実を言えば永遠に目を覚まさずに眠りについていてくれるともれなく俺が泣いて喜ぶんだがそうも言ってられなくてな。何? 用件を言え? はっはっは。用件。用件ね。とりあえず、一つ聞いておくが――テメェちゃんと説明しといたか? え、何の説明? はっは、その口ぶりだとしてねぇな? してねぇだろ? なに? もったいぶるな? よーしそっちに帰ったらテメェが棺桶に入る準備を手伝ってやるから首を洗ってまってやがれ。いい加減に説明しろ? ああ、悪いな、少しばかりテメェのステキな肩手落ちっぷりに殺意が芽生えてエキサイトしすぎちまったよーだな。うん、用件ってのはな――テメェ、俺のこと桜坂さんに言い含んでおいたかってことなんだが、ああ、いい、判ってる判ってる。テメェのその「あ、しもうた!?」って言わんばかりの無言っぷりが凡てを物語ってるっていうか今現在の俺の現状がそれを雄弁に物語ってるんでテメェは有罪。再審無し。死刑。弁解は聞かん――とりあえず、あんたの口から説明してやってくれ」

 疲れたように携帯の向こう側にそう言って、横島は自分の持っているそれを、銃刀法違反間違いなしのマジモンの野太刀を自分に向けて構えて臨戦対戦に入っている桜咲・刹那に差し出した。

「諸悪の根源が説明してくれると。てなわけで、その物騒極まりないものをかたしてくれると俺が喜ぶんだがどーだろーか?」

★☆★☆★

「横島、起きろ! 起きろ起きろ起きろ!!」

「――いま何時やと思っとるんやエヴァちゃん」

 言って、横島は枕元に置いてある目覚まし時計――このあいだの買い物でエヴァンジェリンが自分に買ってくれたファンシー極まりない意匠の目覚し時計を見る。午前四時三分。可愛らしい造りの針が示している時間は、常ならばいまだ朝と呼ぶには躊躇いを覚えてしまいそうな時刻だった。そんな横島の思いを強めるように、春の空はいまだ暗くひんやりとしている。

「――あと五分」

 目覚まし時計の示す時刻を確認した横島は、あまりなベタな台詞を口にして再びふかふかとした枕にその顔を埋めた。ぼすん、という音と感触を感じ取ると同時に、自分の意識が再び眠りに誘われていくことを感じ――

起きろと言っている!!

ぐぉっ!?

 背中にずどむと一撃を喰らい、横島は車に轢き潰された蛙のような声と同時にベッドの上で海老反りに身体を反らす。しばしぴくぴくと痙攣したかと思うと、ぱたんと力無くベッドに四肢を投げ出す横島。呻き声を漏らしつつ、自分の背中に跨って一撃くれたエヴァンジェリンの方に顔を向け、恨めしそうな視線を送る。

「うう、こないな時間から何するんやエヴァちゃん」

「オマエが何時までも愚図愚図しているからだろうが」

 言って、エヴァンジェリンは跨っている横島の背中から身体をずらすようにして降り、横島の横にちょこんと腰を下ろす。

「大体、教員は生徒より早く集合地点に行かねばならんのだろうが」

「集合地点? …………おおっ!?」

 まだ夢現といった按配の横島は、エヴァンジェリンの口にした言葉を寝惚けたように反芻し、がばちょ、と身体を起こした。その拍子に、身体を覆っていた毛布が捲れ、シックな意匠のナイトガウンに包まれた肢体が姿を現す。

「――――もしかしなくても忘れてたのかキサマ」

「はっはっは、やだなぁエヴァちゃん。まさか修学旅行の出発日を忘れるなんてベタなボケするわけないじゃないか。こう見えても教師なんだぞ?」

 図星で御座いといった白々しい笑みを浮かべて言う横島に、エヴァンジェリンはこいつ本気で忘れてやがったな、といった視線を送り、次の瞬間溜息を漏らす。

「――茶々丸が朝餉の準備を終えて下で待っている。さっさと降りてこい」

「あいよ」

 飛び降りるようにして軽やかに床に降り立ったエヴァンジェリンに促され、横島もそれに続こうとし、

「――――およ?」

 上げようとした腰を再びベッドに落とした。

「どうした? 何をしている?」

「あー、うん。なんでもないなんでもない」

 言って横島は腰をあげる――今度は、ベッドに尻餅をつくようにして腰を下ろすようなことはなかった。だが、

(あー、こりゃあ)

「行くぞ横島」

「あいよー」

 内心で溜息をつきながらも、横島は焦れたように声をかけてくるエヴァンジェリンに答え、その後に続く。内心で思う。タイミング悪いなぁ――まぁ、準備はしてあるから大丈夫やと思うけど。


 気合の入った茶々丸の準備した朝餉を片付けた横島は、エヴァンジェリンたちに先んじて集合地点である大宮駅に向かった。手渡されている京都行きの新幹線のチケットを手に、改札をくぐり、ホームに足を踏み入れる。早朝、ということもあって、人影はそう多くない。が、あちらこちらにちらほらと見える人影の中には、幾らか見知った顔があった。その見知った顔のうちの一人が、横島の姿に気付き、

「あ、タダオ! おはよう!!」

 横島のほうに駆け寄ってくる。その姿を見た横島は、朝から元気だなぁ、みんな、と微妙に枯れたことを思いながら自分のほうに手を振りながら駆け寄ってくる顔見知りに小さく手を振り返す。

「元気だなぁ、ネギ。――ああ、おはようさん」

 子供らしい溌剌さに満ちたネギに小さく苦笑しながら、横島は挨拶を返した。返しながら、スーツ姿にリュックを背負っているというネギの風体――と、いうよりも、そんな彼の表情を見て苦笑を深くした。

「随分楽しそうだな?」

「え? あ、うん。やっぱり判る?」

 横島の指摘に、一瞬目を丸くしたネギは、すぐにはみかむようにして答える。そんなネギに、判らいでか、と横島は頷いてみせる。この顔はアレだ。横島は思った。この顔は、楽しみにしてた遠足を待ちきれなくてうずうずしてるお子様の顔だ。そこまで考えて、横島はふと思ったことを口にする。

「なぁ、ネギ。ちゃんと寝たか?」

「え? あ、その――――えへへへへへ」

 誤魔化すように笑うネギに、やっぱりか、と横島は小さく溜息。自分も、もう随分と前になる子供時代、遠足の前の日は興奮しすぎて目が冴え、まったく眠れないということが多々あったのだが――どうやらネギもそうであるらしい。

「まぁ、気持ちは判らんでもないが――」腰に手をあて、横島は諭すように言う。「寝不足だと、万が一のときの判断力が鈍くなるぞ?」

「万が一?」

「学園長から申し渡されてる任務があるだろーが、こら」

 キョトンとした表情を浮かべるネギの頭を軽く小突いて、横島は言う。ネギは、横島に言われてはっとした表情を浮かべる。それを見て、横島は困ったような笑みを浮かべた。

「浮かれてもいいが――それでも、心の一部分は冷静でいろよ? 冷静でいれば、大抵のことには対応できる」

 言って、横島はネギの頭に手を置くと、幼年者特有の柔らかさをもつ髪ごと頭をくしゃりと撫でた。自分の言葉に真剣な眼差しで頷いているネギを見て、横島は、よし、と満足げに漏らすと、思い出したように付け加えた。

「ああ、それと今回俺はサポート役だ」

「サポート?」

 キョトンとした表情で聞き返すネギに、横島は頷きをひとつ。

「ネギの手におえない事態が起こったときの助っ人だ。まぁ、基本的になんもしないつもりだが。だから、ネギ」横島は、自分を見上げるようにしているネギの視線に合わせるようにして身を屈め、その顔を覗き込むようにして言う。「頑張れ。何が起こるかを常に考え、何が起きても対処できるようにしておけ――オマエなら、そうしておけば大抵のことはなんとか出来る。智慧を捻り、策を為し、それでもなお、オマエの手に余るようなことになったら――そんときゃ俺が助けてやる」

 だから、頑張れ――そう自分に告げる横島に、

「うん! 判ったよ、タダオ!!」

 ネギは強い意志を瞳に込めて頷いてみせた。その返事に、横島は笑みを浮かべ思う。ホントに俺の出番がなけりゃ万々歳なんだがなぁ。旅行ぐらいフツーに楽しませて欲しいもんなぁ。キーやんでもブっちゃんでもアっちゃんでもあーちゃんでも誰でもいいから、ほんの少し俺に平穏をくれ。

 多分無駄くさいよなー、と横島はこれまでの経験則から悲観的な未来を浮かべつつも、人影まばらなホームに視線を向けた。自分がどうして諦観に満ち満ちた表情を浮かべているのか判らないでいるネギに苦笑を浮かべ、横島は言った。

「とりあえず、他の先生方にも挨拶しとくか」

★☆★☆★

「んーやっぱ列車の旅の醍醐味は駅弁に限るよなぁ」

「車窓から見える景色と言わないあたり実にオマエらしいんだが」浜松駅でどっちゃりと買い込んだ四季の寿司弁当を幸せそうに頬張っている横島に、エヴァンジェリンは呆れたような視線を送る。「風情というものを知らんのか、おまえ」

 というか、喰い過ぎだ。すでに空になった弁当箱の山を指して、エヴァンジェリンは言う。無言ではあるが、隣席している茶々丸たちも同意見のようで、それぞれに呆れたような視線を送っている。もっとも、横島はそのような視線なぞ蚊に刺されたほどにも気にしていないが。

「食べれるときに食べておくのは基本だぞ? エヴァちゃん」

「量が問題だと言っているんだ」

 言って、エヴァンジェリンは言った私が莫迦だった、と溜息をつく。窓から流れる風景に視線を送る。何処か、不貞腐れたような雰囲気を漂わせているエヴァンジェリンを見て、横島はなんか機嫌悪いなー、エヴァちゃん、と首を捻る。そして、

「ほい、エヴァちゃん」

「? なんだ、これは」

 目の前に差し出されたのは、箸に挟まれたサーモンの握り寿司。四季の寿司弁当のメインの一つであるそれを、エヴァンジェリンは怪訝そうに横島の顔と交互に見比べながら言う。

「美味しいぞ?」

 すでに散々堪能した横島は、まぁ、茶々丸さんの弁当にはちっと劣るが、と付け加える。その言葉に、エヴァンジェリンはそれが横島の不機嫌そうにしている自分に対する気遣いだと気付き、食い物で機嫌を直そうとする横島のどこかズレた考えに、エヴァンジェリンは喜ぶべきか呆れるべきかと数寸悩む。

(自分を基準に考えるな、ばか)

 だが、内心でそう毒づいた直後、エヴァンジェリンは僅かに頬を緩ませる。気遣いの仕方こそアレだが、横島が自分の機嫌に気を使ってくれたことに、悪い気はしない。だから、

「――ん」

 自分の目の前に差し出された寿司を、ぱくりと口に含む。ゆっくりと、寿司の味以外のものを味わうように咀嚼し、ごくんと飲み込んだエヴァンジェリンは、親鳥に餌をねだる小鳥のような表情を浮かべる。

「そっちの海老のほうは美味いのか?」

「それなり」

 基本的に胃の中に収まればなんでもよし、という性格だが、ここしばらくの恵まれた食生活で舌が肥えている横島は、聞くものが聞けば辛辣ともとれないこともない台詞を吐いて、海老の握りを箸で摘もうとし――

「どうした?」

 急に顔色を悪くした横島に、エヴァンジェリンは怪訝そうに尋ねる。

「――――ぎぼぢわるい」

 青い顔をして口元を抑えた横島は、ごめん、ちょっと席外すわと言い残し、トイレに向かった。そんな横島の後姿をしばらく唖然として眺めていたエヴァンジェリンは、

「喰い過ぎだ、莫迦」

 憮然とした表情で呟いた。


「あー、結構キテるなぁ」

 トイレから出てきた横島は、まだ青褪めている顔色でダルそうに言う。しまったなー、朝はそうでもないかなーと思てたんやがなぁ。ぶつぶつと愚痴りながら、横島はポケットの中からオブラートに包まれた粉薬を取り出すと、包装を破き、口に含む。手元に水がないので、時間をかけて咀嚼するかのように胃の中へと粉薬を納めていく。

 水を使わずに粉薬を服用するときに特有の不快感に顔を顰めつつ、横島はエヴァンジェリンたちの待つ席へと戻ろうとし――

「? なんや?」

 扉の向こうが随分と騒がしいことに気付き、首を傾げた。

★☆★☆★

 横島・多々緒という人物は、どうにも得体が知れない――それが、桜咲・刹那が自分の副担任に抱いている印象であった。三年に進級するのと同時に、自分たちのクラスの副担任の座に納まった女性。外見は、同性である自分ですら思わず溜息を漏らしてしまいそうな、美の神にえこひいきされているとしか思えない美貌とプロポーションを誇っている。まぁ、それだけならば問題はない。

 だが。

 あの、あまりにも自然体すぎる動作、姿勢。何をどうやっても、自分が勝ちを収めることが出来ないと思わせるそれは、只人が持っている雰囲気ではない。

 学園長が――あの孫思いの老人が、目に入れても痛くないほどに溺愛している自分の大切な孫娘の所属しているクラスに、不審人物を配するとは思えないから、とりたてて行動は起こしていないが――

(正直、勘弁してほしい)

 敵地、とまでは言うつもりはないが、麻帆良に比べると格段に危険度が増す土地への修学旅行だけでも頭が痛いのに、不確定要素――木乃香の護衛に関する不確定要素の存在は刹那にとって頭を悩ませる原因になっていた。

 正直なところ、この旅が始まる前に、横島という人物の人となりを確認しておくべきだったか――刹那はそう悔やんでいた。

 そんな刹那の懊悩など知らぬように、横島は刹那を含む6班の面々の前で、暢気そうな表情で大量の弁当を頬張っている。ほんとに、どういうヒトなのだろう。この姿を見ている限り、そうそう悪い人物には思えないのだが――

「車窓から見える景色と言わないあたり実にオマエらしいんだが風情というものを知らんのか、おまえ」

 不意に、弁当を頬張っている横島に、エヴァンジェリンが話し掛けた。口調からはある種の親しみというか、遠慮のなさが感じられる。刹那はそのことに、僅かに眉を顰めた。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。学園に封じられた真祖の吸血鬼。横島の隣――窓際で頬杖をついている金髪の少女の経歴を脳裏に思い浮かる。

(横島先生と、親しいのだろうか)

 なにやら痴話喧嘩に見えないこともないやりとりを眺めて、刹那は思う。真祖の吸血鬼――要注意人物と親しい。刹那の心の中で、横島に対する警戒心が膨れ上がった。エヴァンジェリンは、学園の警備員としても活動している。しているが――だからといって、安易に味方と断じることが出来る相手ではない。

 その、エヴァンジェリンと親しい。

(どう判断すべきだろう)

 刹那が横島の人物評――あるいは、敵味方の識別認識に悩んでいると、不意に横島が立ち上がり、席を離れた。視線を床に落として考え込んでいた刹那は、横島が口元に手をあて、不調を訴えて青い顔をしてトイレに向かう旨を告げたことに気付かなかった。ただ、喰いかけの弁当を残して不自然に席をはずしたようにしか思えなかった。その不自然さに刹那が首を捻った瞬間、

きゃ―――――――――――――――――っ!?

 車内にクラスメイトの悲鳴が響く。何事か、と刹那が辺りを見渡すと――

 2−Aの面々が陣取っている車両に蛙が溢れかえっていた。その光景に、刹那は思わず唖然とし、

(これはっ!?)

 次の瞬間、辺りを我が物顔で跳ね回っている蛙たちから微弱な魔力の気配を感じ取り顔を強張らせる。そして、

(これかっ!!)

 不意に溢れかえった大量の蛙、その直前に不自然に席を外した横島を結びつけ、刹那は勢いよく席を立った。駆け出す。途中、あたふたとしている自分の担任――子供魔法先生の姿を見かけるが、今は無視。横島の後を追う。

「むっ!?」

 その刹那を、一羽の燕が追い越していく。燕からはやはり蛙と同じように魔力の気配。そして、

「あれはっ!!」

 目の前を猛烈な勢いで飛んでいく燕が咥えているものは、関東魔法協会の印章の蝋封がほどこされている封書だった。そのことに気付き、刹那は確信する。なるほど、これが狙いだったか――――!!

 まるで燕が飛来するのを待ち構えていたかのように開かれた扉に、滑り込むようにして燕が入っていく。刹那と燕の距離は車両一つ分。逃してなるものか――刹那は足に込める力を増し、床を蹴る。もっとも、燕の行き先は判っている。万が一の場合は――

 刹那は、何時の間に袱紗から取り出していた愛刀を握る手に力を込めた。


「なんだなんだ? ――とっ!?」

 扉を開けて向こうの様子を窺おうとした横島は、手をかけた扉を僅かに開いた瞬間、その隙間から飛び込んできたものを反射的にキャッチした。燕だった。

「なんで燕が――って、こいつは」

 燕が咥えているものをさっと奪い取り、横島はそれが何処かで見たことのあるものだと気付いた。あの時、ネギが学園長から託されていた親書だった。そのことに気付き、横島は小さく溜息をつく。

「初っ端からこれかい」

 気負いすぎて空回りしてるかな? 自分の注意に力強く頷いていたネギの顔を思い浮かべ、横島はやれやれと肩を竦める。思う。つーことは、この燕は向こうの連中が放った式か。そう考えた横島は、式の操作系統を霊力を使って解析。呪力の流れを辿り――

「新幹線の中におるやないか」

 灯台下暗しってこーいうことを言うんかねぇ。式を型紙に戻して、横島は自分を訪れる先で待ち受けている厄介事に思いを馳せた。

 ――今から麻帆良に帰れんもんかなぁ。

 そんな逃避じみたことを考えた瞬間、

「ここかっ!!」

 僅かに開かれていた扉が乱暴に開かれ、小柄な人影が飛び込んでくる。勢いがついた扉は反動で再び閉じられ、

「――――それを返してもらおう」

 密室と化した空間には、親書を握る横島と、異様な長さの太刀を握る刹那が睨み合う状態となった。

「――まさかこんな身近に、西の刺客が潜んでいるとはな」

「――ほわい?」

 刹那が自嘲気味に放った言葉に、なんのこっちゃ、と首を傾げる横島。だが、

「この期に及んでシラを切ろうとは見苦しいですよ――横島先生」

 ぎらり、と太刀を煌かせながら刹那は言う。そんな刹那に横島は、アレ? 今俺ってばもしかしなくてもスゲェ厄介事に巻き込まれてる? と冷汗を流し――

「よーし誤解だ」

「誤解も六回もあるかっ!! その手に掴まれたものが動かぬ証拠だっっ!!」

 ――はっは、俺、タイミング悪っ!! コントかよっ!! 横島は思わず自分の間の悪さに内心でツッコミの絶叫。そうしている間にも刹那は太刀を構え、じりじりとすり足で横島に近付いて行き――

ストップっ!!

「っ!?」

 その刹那を、横島は気迫で押し留める。爆発的に膨れ上がった気に、刹那は思わずそこから垣間見れる横島の実力に息を呑む。そして、横島の気迫に呑まれる。その様子を見た横島はおもむろに懐から携帯電話を取り出すと、短縮ダイアルをプッシュし、3コール目で出た相手に朗らかといっていい調子の声で話し掛けた。

「アローアロー? こちら横島――――」

★☆★☆★

「す、すみませんでしたっ!!」

「あー、いい。いいって」

 自分に向かってぺこぺこと頭を下げる刹那に、横島は苦笑交じりに言う。

「悪いのは全部あのジジイだから」

「そ、それでも――」

 勘違いから刃を向けてしまったことに対する罪悪感から、刹那はなおも詫びの言葉を口にする。その刹那の様子に、

(律儀な娘さんやなー)

 昨今、自分の周りには見受けられなかったタイプの少女に、横島は妙な感心をひとつ。刃を向けられ云々という事実は、すでに忘却している。もっとも、それは刹那が将来性バツグンの美少女だからであり、これがムサイ男だったりした日にはその限りではないのだが。

「まぁ、ほら。桜咲さんも任務に熱心なだけだったんだから。な?」

「しかし――」

 なおも言い募る刹那に、横島はさすがに面倒になったらしく、どーしたもんかと考え、

「ああ、はい、これ」頭を下げ続ける刹那に、親書を手渡した。「とりあえず、ネギに渡しといてくれ」

「ネギ先生に、ですか?」

 とりあえず、先ほどの無礼(横島は気にしていないが)な振る舞いから、刹那の気を逸らす。手渡された親書を矯めつ眇めつする刹那に、横島は、うん、ネギに――と言い、

「うっ!?」

「どうしました!?」

 不意にぶり返してきた嘔吐感に、横島は顔を青くして口に手を当てる。自分の唐突な行動に気を使う刹那に、それじゃ、よろしく! と言い残して横島はトイレに駆け込んだ。横島の有無を言わせぬ口ぶりに、一人取り残された刹那はぽかんとした表情で横島が駆け込んだトイレを眺め――

「――――っっ」

 次の瞬間、自分の短絡的な行為に顔を赤らめた。恥じ入る。迂闊! 未熟! なんたるザマだ、桜坂・刹那――――!! 

 くっ、と刹那が自分の不甲斐なさに唇を噛んだ瞬間――

待て―――――――――――――――っ!? って、あれ?」

「…………ネギ先生?」

 扉を開けて、先ほどの自分のように意気込んで入ってきた担任が、きょとんとした様子でこちらを見ているのに気付いた刹那は、内心で溜息をつく。遅い。2−Aの面々がいる車両の混乱を収めるのに手間どったか。この様子ではネギ先生の力に対する評価を改めたほうが――そう考え、

(何を偉そうに)

 先ほどの醜態を思い出し、刹那は小さく自嘲した。そして、ネギと、その肩にいるオコジョの視線が自分の手にしている物に集中していることに気が付いた。

「あの――――これ、落し物……です」

「え? あ、どうも!!」奪われた親書が自分の手に戻ったことを素直に喜び、ネギは頭を下げる。「ありがとうございます! 助かりました!!」

「それは先生のものですか?」無邪気に喜ぶネギの姿に、刹那は苛立ちを覚える。もっとも、それは自分の不甲斐なさに対する苛立ちでもある。そのささくれ立った心境に流されて、刹那は棘のある言葉を漏らした。「気をつけた方がいいですね、先生。特に――向こうに着いてからは、ね」

 それでは――と言い残し、刹那は自分の席に戻っていく。その余計な一言に、残されたネギとカモは刹那の素性に不審の目を向けながら、言葉を交わす。と、いっても、現状でそれを確かめる術もない一人と一匹は、刹那の後を追うようにしてその場をあとにする。しばらく、その場に沈黙が訪れ――

「うう、まだ気持ち悪い」

 情けない表情の横島がトイレから出てきて、沈黙を破った。もちろん、トイレでけろけろやってた間に何があったかは知るよしも無い。

「うわ、今回、俺駄目かもしれん」


『知ってるようで知らない世界〜 if 〜』第十四話『旅は道連れ世は情け』了

今回のNG

「横島せんせー」

「ん? どうしたのかな?」

 東京駅で停車している新幹線の中で、果たして駅弁を買ったものかどうか悩んでいた横島は、不意に自分を呼ぶ声に振り向く。そこには、なにやら困惑した顔の自分の受け持ちの生徒――出席番号14番、早乙女・ハルナが立っていた。

「いや、その。なんか変なものが外に」

「変なもの?」

 まだ関東を出ていないのに、早速西の連中が手を出してきたのか――そう思い、少しばかり表情を固くした横島は、窓の外をさすハルナの指の先に視線をやり――

「…………」

 思わず絶句した。

「先生、アレって」

「言わないでくれ、早乙女さん。お願いだから言わないでくれ」

 思わず頭痛を堪えるようにして言う横島の視線の先には、ホームにたむろしている死神博士やバボちゃんやモグタンやはに丸やらの周囲からめちゃめちゃ浮いている姿があった。

「いいか、早乙女さん」

「なんですか、横島先生?」

「見なかったことにするんだ」

「でも」

「いいから。見なかったことにしときなさい」

 じゃないとマヌケ時空に引き込まれるぞ――横島はそう言って、ハルナを席に戻した。と、不意に新幹線が揺れる。どうやら発車したらしい。よかった。横島は思わず安堵の溜息をついた。とりあえず虎口は逃れられたらしい。車窓から流れるようにして消えていく東京駅のホームに向かって乾いた笑いを浮かべた横島は――

「…………」

 なにやら星一徹のコスプレをしてVサインを見せている人物を見かけて、もしかして本編にまで絡んでくるんじゃないだろうな、と途方に暮れた。



後書きという名の言い訳。

修学旅行で新幹線といったらこのネタしかなかろうと思いつつ最近の若い子に通用するんじゃろかと不安になっている山道ですこんばんは(※挨拶)。多分、奈良公園で鹿と格闘してる東京都職員とか出てくるんだ(※出ません)。それは兎も角、明日の金曜に更新できるか微妙だったので一日早く更新してみたわけですがどうか。来週は金曜更新で。では、また来週ー。





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