無題どきゅめんと


「う、あ――」

 丁度そこは、あたりを覆い隠すようにして繁っている木々が開けた――ありていにいうならば一種の広場のような場所だった。深い新緑の葉をつけた枝々が天を覆うようにしているおかげで昼ですら薄暗い周囲と違い、夜空を彩る宝石箱の中身を撒き散らしたような星々や月が煌々と輝く様を充分に見て取れる場所になっていた。

「う、っく、ひぅ――――」

 地上では周囲を遮るようにしている木々のおかげか、いまだ冷たさを残す風は枝を微かに揺らし、葉を少しばかりざわめかせる程度にしかふいていない。が、高空では話が違うらしい。空の高みで吹き荒ぶ風が、夜空にたゆたう捉えどころのない雲たちを思うままに弄び、千切り、押し流している。そうして風に弄ばれる雲たちが、ときたま天然自然の広場に差し込むささやかな、陽光にはけして持ち得ぬ柔らかみと冷たさを同時に備えた月明かりや星明りに強弱をつけていた。

「うぁあぁぁ――――」

 そして、その気紛れな演出家が作る照明のもと、寄る辺無い幼子のような嗚咽が、あたりのひっそりとした夜気に溶け込むようにして響いていた。

☆★☆★☆

 周囲に存在する大気をプラズマ化させ、霊力の煌きを撒き散らせつつ、ギョーテンキングは天空の高みから垂直に駆け下る。どう見ても歩行には不向きな印象をうける可動部はおろか土踏まずすら存在しない右足の裏は、大気との摩擦で赤白く輝いていた。少し離れてその様子を見たならば、それはまさに天を切り裂きながら落下する白熱する流星とでも見えるだろう。

 空を駆け下る一筋の流れ星と化したギョーテンキングは、その速度を落とすどころかいや増して大鬼神――リョウメンスクナノカミへと吶喊。むろん、己に向かってくる脅威を甘んじて受け入れるほどに大人しいはずもない荒ぶる旧き神は、凶暴な相貌を駆け下ってくるギョーテンキングに向けると、くぱ、と大きく口を開き――

 克、

 と先ほどにも増して猛々しい威力を誇る一撃を口から放つ。目も眩むような一条の閃光が、ギョーテンキングの姿を捉え、その白熱する右足の先端に直撃し――

 ――散、

 と弾けた。その右足に、どれほどの威力が込められているというのか。下手をするならばちょっとした小山程度であれば消してしまいかねない威力を誇る一撃は、だが、まるで子供の水鉄砲のようにあっさりとあしらわれた。そのさまに、さすがの鬼神も唖然としたのか、一瞬、避けることも忘れて棒立ちになり、

 轟音。

 ヨコシマン・レディ・ブラックとギョーテンキングのもてる凡てを注ぎ込んで繰り出された一撃をまともに喰らった。瞬間、鬼神と東宝特撮テイスト満載のロボが接触した箇所から凄まじい衝撃波が発生した。暴風が吹き荒れ、周囲に存在する凡てに等しく叩きつけられる。

「――――っ!」

 それは、近衛・木乃香の奪還という本懐を成し遂げた桜咲・刹那も例外ではない。不思議なことに、なんの抵抗も見せなかった敵――天ケ崎・千草から木乃香を奪い返し、恐るべき鬼神から可能な限り遠ざかろうとしていた刹那は、背に硬質の大音響を感じた直後、背後から吹き荒れる嵐のそれをも軽く凌駕する突風に、まるで木の葉のように空中で弄ばれる。

「くぁ――――」

 だが、刹那は持ち直した。腕に抱きかかえる木乃香を護る一心で、懸命に姿勢を御し、吹き荒れる風を乗りこなす。一瞬の猛威が去り、とりあえずの危地を脱した刹那は、思わず突風の発生源を振り返る。そこには、術者の制御が消えたからか、はたまたギョーテンキングの一撃の余波からか、自らを封じていた要石から完全に抜け出した鬼神と、それに肉弾戦を挑むギョーテンキングの姿があった。振りかぶった右拳に体重を乗せて、ギョーテンキングがフック気味の一撃をスクナの顔面に叩き込もうとし――それに合わせてすくなもまた同様の一撃を繰り出す。両者の拳が交差し、直後、ともにその拳が互いの顔面にヒットした。六〇mオーヴァーのクロスカウンター。世界戦でもそうそうお目にかかることのない一撃同士の軍配は、

「横島せ『私は横島先生ではないッッ!!』んせい――――いや、いいです。ええ」

 スクナに上がっていた。蹈鞴を踏んで後退するギョーテンキングの姿に、思わず刹那が悲鳴じみた声をあげるがそんなシリアスな空気を無視するようにしつこく主張するYLBの声。

『私は横島先生そっくりの人間が住む――』

「いやもうホントにいいですから」本気でしつこいYLBに溜息をつきつつ、刹那は尋ねた。「大丈夫ですか?」

『うむ』かなり距離があるはずの刹那の言葉に、重々しく頷いてギョーテンキング――の中のヒトが答えた。『全っ然、駄目だ』

「ええっ!?」

『正直言って、〈驚天号〉も死ぬほど長い間整備してなかったし、第一、今の私ではこいつを満足に動かせるだけのれ――気も魔力も捻り出せん。アーティファクトで増幅してもせいぜい肉弾戦を挑むのが関の山、それにしたところで――と!』

 殴りかかってきたスクナをすんでのところでかわして、YLBは続けた。

『今のギョーテンキングではどう足掻いても勝てん。さっきの一撃で決まればいいなぁなどと思っていたが甘かったようだ――ふん!』攻撃をかわされたことで隙の出来たスクナのボディにショートフックを叩き込んで、YLBは告げる。『とりあえず、時間を稼ぐので逃げろ』

「そんな!?」

 至極あっさりとした口調で告げるYLBに思わず刹那は絶句した。目の前では、リバー(※と思しき場所)に叩き込まれたフックなど痛痒にも感じていない様子のスクナが、ギョーテンキングに向かって肘を打ち下ろしている。ごん、と重い音が響き――頭部にそれを喰らったギョーテンキングが思わず蹲る。そしてストンピングの嵐。ボクシングが何時の間にかプロレスになっていた。パンツの中から栓抜きが出てくるのも時間の問題のように感じられてならないその様子に、刹那は思わず私も戦います、と叫ぼうとして――

『為すべきことを見誤るんじゃあない』

 ストンピングに見舞われているとは思えないほど冷静な声が周囲に響いた。直後、一瞬の隙をついて身体をごろごろと転がしてその場を逃れたギョーテンキングがぴよりながらも立ち上がりつつ言う。

『何の為に、皆が――ネギ先生や、神楽坂くんが戦いに身を投じているのか、忘れてはいけない。君が何の為に、秘していた姿を人目に晒したのか、けして忘れてはいけない』

 諭すような優しい声で、東宝特撮風味のロボが語りかける。足元ではささやきレポーターが命懸けで実況。声はもちろん富山敬だ。

『すべては、君の腕の中で眠る愛らしい少女を救うためだ。その笑顔を護るためだ。そのために、誰も彼もが、零れそうになる涙を堪え、挫けそうになる心を叱咤し、歯を食いしばりながら戦っている。ならば、それに報いる為に君が為すべきことは、ただ一つ。違うかな?』

 じりじりとすり足でスクナとの間合いを計るギョーテンキングのその言葉に、刹那は思わず声を失った。目の前で繰り広げられる超現実的な怪獣プロレスの異様さなど、どこかに吹き飛んでしまった。そうだ。そうだった。刹那は思った。ネギ先生が、明日菜さんが、絶望を前にしてなお吼えてみせたのは、このちゃんのためなんだ。このちゃんを護りたいから、このちゃんを助けたいから、弱音も吐かずに頑張ってるんだ。そして、そのこのちゃんをこの危険から逃れさせることが出来るのは、私だけ――

「で、でも!!」

 果敢にトップロープからフライングボディアタックを敢行するギョーテンキングに、刹那は割り切れぬ心もあらわな声をあげる。避けられるボディアタック。自爆してもんどりうつギョーテンキング。ヤクザキックをお見舞いするスクナ。ロープに逃げるギョーテンキング。

『まぁ、そう心配することもない』

 息も切れ切れに、だが、自信満々にギョーテンキングの中のヒトは言い切った。

『なんとかなる』

☆★☆★☆

 白髪の少年を――圧倒的猛威を振るうフェイトを前にして、ネギと明日菜は自分たちに残された、かつ持てる凡てを用いて立ち向かっていた。無論のこと、彼我の技量の開きは絶望的なものがある。おそらくは見かけどおりの存在ではないフェイトに対して、ネギは潜在的に凄まじいポテンシャルをもち、その発展性に非常に期待がもてる子供であったが――どこまでも見た目どおりに経験の足りない子供でしかなかった。明日菜にいたってはほんの少し前まで多少お転婆が過ぎるとはいえ、ごく普通の女中学生でしかなかった。

 そんなネギと明日菜が、おそるべき技量を備えたフェイトに立ち向かうこと事態、どうかしている。本来であれば、然るべき能力と経験を兼ね備えた大人がことにあたるべき場面のはずだった。だが、そこにその大人はいない。いや、いることにはいるのだが、その大人は今現在、街中を闊歩したら即座に手が後ろにまわりそうな格好で非常識の塊のような巨大ロボに乗り込んで呆れるほどに巨大な鬼神とウルトラファイトも顔負けの怪獣プロレスを展開している。であるならば、たとえ経験が足りなかろうと、技量に絶望的なまでに開きがあろうと、立ち向かわなくてはならなかった。それに、彼らには理由がある。

 自分の教え子を、親友を、如何にしても救い出す、という誰にも異を唱える事を許さぬ決意に基づいた理由が。だからこそ、残された力を後先考えぬ勢いで振るい、技量の差を埋めるために懸命に智慧を絞って戦術を組み立てている。自分たちの背後で友軍たる巨大ロボが敗色濃厚になっているのにも、必死の思いで目を向けないようにしている。まず、自分たちは、この目の前の存在に立ち向かわなくてはならないからだった。

 ロープに走り、その反動でスクナに向かってラリアットを敢行するギョーテンキングの姿を尻目に、ネギは、足りぬ経験を全力で埋めながら――今、この刹那の一寸の瞬間にも猛烈な勢いで成長しながら、おそるべき敵に魔法の矢を繰り出した。

 当る、

 とは思っていない。せいぜい、ちょっとした牽制が関の山だろう。雨霰と繰り出すのであれば兎も角、今しがた放ったそれは、十指あれば数えるのに事足りるどころか、余る指さえ出る始末。だが、かまわない。それで良かった。そう確信しながら、ネギは微妙にフェイトの視線からずれる位置に身体を移動させ、魔法の矢を――もちろん比喩的な意味において――追い越さんばかりの勢いで駆け出した。枯れかけた魔力を、利き腕である右手、その拳に一滴残らず掻き集め、硬く、硬く握りこむ。

 自分たちの戦いの背後では、ギョーテンキングのラリアットがかわされ、いきおきのついたまま反対側のロープに突っ込み、その反動で戻ってきたギョーテンキングにスクナの三十二文ロケット砲が炸裂していた。シュールな破壊力に満ちた轟音があたりに響く。だが、ネギは振り向きもしない。吹き飛ばされたギョーテンキングが、大音響を撒き散らしながら地面に落下し――ついに力尽きたのか、ゆっくりとその姿が薄れていく。だが、ネギはひたすら無視した。フェイトですら思わず意識を持っていってしまうそれらすべてを、ネギはすさまじいまでの自制心で無視してみせた。おそらく、意識をそちらに移してすら、フェイトにとって自分たちの相手をするのはどうということのないものでしかないのだろう。だが、それは力有るものの持つ油断であった。それこそが、力なき者の付け入るべき隙であった。

 視界の端に、フェイトの認識範囲からすれば自分とは対位置の位置から吶喊をしかける明日菜の姿が目に映った。今日この瞬間まで、組んで戦ったことなど五指で数えられるほど。無論のこと、コンビネーションを想定しての訓練など――いや、訓練そのものもやったことがない。だが、明日菜に天賦の才があるのか、はたまた二人の相性がいいのか。あるいはその両方か。事前の打ち合わせもなしのぶっつけ本番だというのに、まるでそうあって当たり前といわんばかりに、明日菜はネギの攻撃を容易にするために必要な行動をとっていた。

 そう、フェイトを打ち破るために必要な行動を。

「――――ふ」

 ちらり、と視線を自身に迫る魔法の矢に戻したフェイトは、馬鹿にしたような笑いとともに自らも魔法の矢を放ってそれを迎撃。一瞥をくれただけで、フェイトは己を討たんと欲する魔法の矢を――憐れを催すほどに少ないそれに対する対処を終えた。ふたたび、盗み見るようにして、鬼神と非常識な巨大ロボのほうに視線をやる。すでに、勝敗は決したらしい。巨大ロボの巨体が、まるで霞みのように存在感を失っていく。その姿を始めて見た瞬間には、思わず眩暈にもにたような感覚を覚えたが――どうということはなかったか。フェイトはあくまで表情を変えずに、だが、嘲りの色を瞳に浮かべた。向こうの決着はついた。であるならば――

「とぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 こちらもそろそろ嬲るのをやめて決着をつけるとしよう。何の冗談かは知らないが、ハリセンを振りかぶってくる明日菜に向けて、フェイトはすっと右手をかざした。浴場での出来事――水妖陣の効果が自身の望むそれとはことなったかたちで発現したこと――から、念には念を入れて、魔法障壁だけに任せずに、自身も意識して攻撃を防ぐことにしたのだった。それきりハリセンを上から降りぬいてくる明日菜に対する興味を失ったフェイトは、攻撃を防いだあとのことについて思案を巡らせる。まず、この少女を無力化させて――

「なにっ!?」

 思わず、フェイトはすべての思考を中断し、脳の凡てを意識の凡てを驚愕という感情に費やした。完全に防いだはずの明日菜の一撃。それが、二重に張り巡らせた障壁を蝋細工のように叩き割って自分に向かって振り下ろされていた。まさか、これは、

「魔力完全無効化能力かっっ!!」

 ここにきて、はじめて感情らしいものを声に滲ませて叫んだフェイトは、予期せぬ、まったくもって予想だにしなかった攻撃を、それでもなおかわしてみせた。とはいえ、華麗にスルー、というわけにはいかなかった。無理な体勢で風を切り唸り振り下ろされるハリセンをよけたことによって、隙らしい隙などまるで皆無であったフェイトに、どうしようもないほどに致命的な――ほんの一瞬、ほんの僅かな隙が生まれてしまっていた。

 ち、と舌打ちするフェイトの双眸に、にやりと笑う明日菜の悪童じみた顔が映った。

「やっちゃいなさい、ネギ!」フェイトの視界の中で、これまでの憂さを晴らすかのような調子で明日菜が叫んだ。「この舐めた悪ガキにきついの一発食らわしてあげなさい!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 完全に不意をつかれた。ギョーテンキングに、そして明日菜に意識を奪われていたフェイトは、様々なモノの努力と無数の要因が組み合わさって生み出された必然による隙――崩れた態勢を立て直す間も術もなく、渾身の力を込めたネギの半ば石化した右拳をその頬に思い切り喰らった。

 ごっ、という鈍い音があたりに響き――周囲から音が消えた。

 いままさに完全に消え去ろうとしているギョーテンキングの巨体を背景に、背格好の似た少年二人は、呪縛に捕らわれたかのように、殴り殴られた態勢のまま固まっている。ネギは、渾身の力を込めたそれを振りぬかんとし、フェイトは矜持にかけてそれを頬で止めていた。両者の力が拮抗し、不思議な静止を生み出している。

「身体に直接コブシを入れられたのは初めてだよ――」憤怒の声でフェイトは言った。「ネギ・スプリングフィールド!!」

 叫ぶようにして言ったフェイトは、不意に首を中心に込めていた力を抜く――次の瞬間、つっかえが取れたネギの力のベクトルは一切の抵抗を無くしたフェイトの身体をぐりんと一回転させ、

「死ね」

 拳を振りぬいたネギの背後で、フェイトは致死レヴェルの魔力を込めた貫手を放つ。

 だが、

ウチのぼーやが随分と世話になったな――若造

 フェイトの放った必殺の貫手は、ネギの背を貫けなかった。絶妙のタイミングで月明かりの作り出した影からぞろりと現れた手が、強い力でフェイトの腕を掴んでいた。

☆★☆★☆

「どーやら片付いたみたいだな」

 星明りのしたで、彼女はそう呟いた。ヨコシマン・ブラック・レディ――否、力を根こそぎ使い果たし、変身が解けたことによって元の姿に戻った横島・多々緒は、タイトスカートを浅い水辺で濡らすようにして尻餅をつきながら、疲れたように息を吐いた。

 しかし、まぁ。

 横島は思った。えらいギリギリやったな、ほんと。飛んでくるよりも跳んできたほうが早いのは知ってるが――転移魔法の準備が整うまであのデカブツを押しとどめるのは一苦労だった。遠目にめっさめらハイな調子で高笑いしながら超難度の高位呪文――超々低温を用いた凍結破壊魔法をぶっぱなしてさんざんっぱら自分とギョーテンキングをいたぶった鬼神をいてこましたエヴァンジェリンの姿に、ごきげんやなぁエヴァちゃん、と横島は苦笑をひとつ。まぁ、こないだネギとやったときは不完全燃焼気味だったから無理はないのだけれど――それにしても、ホントギリギリやった。

 いや、なにがギリギリやったって――

「見られなくて、良かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 全力で安堵の溜息を漏らす横島。いやもう、ホントぎりぎり。上手い具合にギョーテンキングがやられて変身が解けたからええよーなもんやけど、もしアレ見られてたらどーしよーかと。流石にアレ見られたらいろいろゲロしないとアカンやろうし――なにより、あの姿を見られるのはちょっと。

「あとでネギたちに口止めしとかないと」

 霊波刀ちらつかせながら脅しときゃ大丈夫かな? などと聖職者にあるまじき思考を弄んでいた横島は、よいしょ、と年寄り臭いかけごえを口にして、下着までびしょ濡れになった尻を水面からあげた。水に浸かっている間はそうでもないが、空気に晒され否応なしに濡れていることを実感させられる不快感に眉をひそめる。

「あっちも片付いたみたいだし」

 肢体に張り付く濡れた布を指でつまみながら、横島は怪獣大決戦の行われた舞台から離れたところにある木々に視線をやった。

「最後の後始末をつけにいくか」

 言って横島は、けして軽くない足取りでそこに向かう。少なくとも、五体満足ではあるはずだった。初手の一撃――スーパー・ヨコシマン・キックを放つ前、刹那に木乃香を奪取された直後、力を使い果たしたかのように、よろばうようにして落ちていったことを確認している。であるならば、彼女の行為を見逃してきた人間として、つけねばならぬけじめが横島には存在していた。


 膨大な魔力を伴う冷気の迸りを感じると同時に、先ほどまでこの世の凡てを圧するかのごとき威圧感と存在感を放っていたものが、現世から幽世へと叩き返されることを理解した。暴力的なまでの霊圧は霧散と消え失せ、周囲にはその代わりとばかりに、五月も半ばだというのに何時の間にか霜がおりている。

 木々に繁る青葉を揺らす季節から考えるといささかばかり冷たすぎる風に、疲労の極地にある身体を一撫でされて、千草は呻きとも溜息ともつかぬものを口から漏らした。ともすればその場に頽おれてしまいそうになる身体に鞭打って、千草は引き摺るようにして木々の合間を縫うようにして歩いていた。

 駄目やった。

 自分の限界を超えて術を行使した代償として、心身共に鉋で手荒く削られたかのようになりながら、千草は自分の目論見が鬼神と共に消え去ったことについて端的な感想を持つ。打てる手を凡て打ち、使えるものは、それこそ得体の知れない新参の余所者を使っても――駄目だった。

 世界に、問いは響かなかった。

 失われた者たちの代理は勤まらなかった。

 無論、自分の目論見が上手く行ったからといって、夜明けとともに新しい世界が訪れると考えるほど、千草は夢想家ではなかった。だが、これで明日もまた昨日と変わらぬ一日が訪れることが確定した。してしまった。

 誰もが目を閉じ、胡乱な砂上の楼閣での日々にうつつを抜かす代わり映えしない偽りの平和。それが、次の夜明けと一緒に訪れる。そのことに思い至って、千草は不意に足を止め、ぎり、と歯軋りをひとつ。

「ごめんなぁ……」

 ごめんなぁ、おとうちゃん、おかあちゃん。

 ウチ、あかんかったわ。

 最早記憶の片隅にしか――時折、その顔すら思い出すことが出来なくなりつつある自分の大事な人たちに詫びの言葉を内心で呟いて、千草はその双眸から一筋涙を零した。小さな、遺体の入っていない二つの白木の棺桶の前で泣いて以来、ついぞ流さぬように勤めてきた涙が、堪えきれずに溢れてくる。

「ほんま、ごめんなぁ」

「謝るこたぁないと思うよ」

 もう一度詫びの言葉を口にした千草に、優しげな調子で声がかけられた。声のしたほうに顔を向けると、そこには濡れた衣服に身を包んだ横島が立っていた。その姿をみとめた千草は、俯きがちだった顔をあげると、居住まいを正して彼女に向き直る。

「何の用どすか――とは聞かぬが花、なんでっしゃろなぁ」

 苦笑を浮かべつつ言う千草に、横島も、まぁね、と苦笑を返す。

「とりあえず、もういっぺん言うけど――千草ちゃんが謝るこたぁないさ。キミは良くやったよ」

「せやけど横島はん」

「問いは世界に届いたさ」首を振る千草に、横島は言う。「これだけの事件を引き起こせば、始末はどうあれ、その意思は認知される。世界は、否応もなく、見ようとしなかったことに目を向けさせられる。失われた者たちの問いを、問い質す声に耳を傾けざるをえなくなる。――明日の世界は、昨日よりもほんのちょっとだけ、何かが変わってるだろうさ」

「そうでっしゃろか」

「過去に囚われていては未来には進めない――が、未来をより素晴らしいものにするのには、過去をきちんと受け止めることが大切だ。真実とは覆い隠すものではなく、常に問い掛けるものだということに気付く――その切欠にはなる。ま、多少あらっぽい目の覚まし方だとは思うが」

 それからな、と横島は付け加えるようにして言った。

「過去は囚われるもんじゃない。明日の糧にするためのもんだ。これはキミのことだね。失われた者を忘れろなんて口が裂けてもいえんが――だからといって、彼らのために失い続けるのも間違ってるぞ」

「失い続ける?」

「キミの未来だよ、千草ちゃん。いい加減、ご両親も安心して黄泉路につけんぞそんなこっちゃ」

 その言い草にかちんときたらしい千草が声をあらげようとし、

「!?」

 それよりも早く、横島の握りこまれた手から眩いばかりの光芒が溢れる。その様子に面食らって声を出す事を忘れた千草に、横島は言った。

「私には人様よりちっとばかし霊感ってもんがあってね? まぁ、そこらの退魔士だの魔法使いだのじゃあ気付けんよーなもんにも気付けたりするんだ。で、そこらへんをふまえて後ろみてごらん?」

「うし、ろ――――」

 促されるままに振り向いて、千草は思わず絶句した。そこには、

「――――おとうちゃん、おかあちゃん」

 すでに鬼籍に入っている千草の両親の姿があった。

「心配だったんだろうね」懐から細巻きのパッケージを取り出して一本咥えた横島は、何時ものように燐寸もライターも使わずに火をつけて言った。「構成霊基がほとんど失われてるってのに、ずっとキミの傍にいた」

 あまり心配をかけるものではないよ、という横島の言葉は、だが、千草の耳には届いていない。彼女の思考は、朧気に朝の気配が近付きつつある森に佇む二つの人影に集中していた。

「おとうちゃん、おかあちゃん」

 もう一度呟く。その声に、朧げな両親たちの姿は、やさしげな表情で、うんうん、とでも言いたそうに何度も頷く。

「あのな、ウチ、ウチな。あれからな、ずっと、ずっと――!!」

 なんとか言葉を紡ごうとするが、だが、何を言っていいのか判らず、千草は小さな子供のように要領を得ない言葉を口にする。思いは溢れ続ける、が、それを言葉にしようとすると、言葉にしきれないでいる。それがはがゆくて、千草は先ほどとは異なる類の涙を目の端に浮かべる。その姿をみとめた幽世の住人である千草の両親たちは、何所までも優しげな表情で、口を開いた。が、言葉はは発せられない。彼らに、それだけの存在が残っていないのであった。今、こうしていることも、横島が最後に取って置いた文珠に『顕/現』と刻んで発動させればこそであった。

 そして、いかに万能の文珠といえど、消え去らんとしている魂魄――いや、魂魄の残滓を現世に顕現させ続けているのには限界があった。ゆえに。

「あ――――」

 びゅう、と一瞬強い風が呼び込んだ埃に、千草が目を閉じた瞬間。幽世の住人はあるべき世界へと旅立っていった。再び千草が目を開いたときには、しんと静まり返った木々の陰だけがそこにあった。さきほどまで亡き両親の姿が佇んでいた箇所をじっと見ていた千草は、奇妙なまでに無表情な顔で、最後に目にした彼らが紡いだ唇の動きを脳内でリフレインさせていた。

「横島はん」

「なんだろか、千草ちゃん」

 はてな、と首をかしげる横島の姿――いや、その言葉に、千草は、いつか感じたひっかかりが何であったのかようやく理解した。ああ、おかあちゃんがウチを呼ぶときの呼び方やったんや、千草ちゃん、て。

「なぁ、横島はん」

「うん、なんだろか、千草ちゃん」

 泣き笑いの表情を知らず知らず浮かべた千草は、もう一度横島に呼びかけた。

「ウチ――もう、代わりに声をあげんでもええんやろか? もう、ええんやろか?」

「ああ」泣き笑いの千草に、横島は目を細めるようにして頷いた。

「キミはキミのために。失われた者たちの代弁者としてではなく、ただキミのために――――幸せになるべきだ」

 幸せにおなり――

 横島の言葉に被さるようにして、両親の最後の唇の動きが千草の脳裏にフラッシュバックし、

「う、ぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――」

 彼女は声をあげて、泣いた。

☆★☆★☆

「というわけでして死ぬほど痛いので両サイドからケツを抓り上げるのは勘弁していただきたいのでアリマスガもげるもげる私のケツがもげる!!」

「煩い黙れ」

「申し訳ありません。マスターの命令ですので」

「――――スクナの再封印は完了しました」

「むしろここでスルーされるとその心遣いが傷に塩を塗りこまれるよりも痛いですよ近衛さん!?」

 本山での様々な想いと決意の交錯する決戦の夜から一夜明けた修学旅行最終日。一通りの観光を終えた一行は、ネギの父親であるサウザンド・マスターことナギ・スプリングフィールドが暮らしていたという住居に向けて、近衛・詠春の案内で歩を進めており、横島はエヴァンジェリンと茶々丸からここ最近で一番激しくケツを抓り上げられていた。

「うむ、面倒を押し付けて悪かったな」

「いえ、こちらこそ」

「いやだからスルーしないでっつーか明らかに私のケツがシリアスな空気ブチ壊してる!!」

「きゃんきゃん喚くな横島。だいたい、今キサマのケツがもげそうなのは全部自分のせいだろーが主のピンチに傍におらんとはどう了見だキサマ」

「仕方ないやないかー!? 全開状態のエヴァちゃんがどーこうされるとは思わんかったんやー!! 堪忍や――――!!」

 ぎりり、と更にケツを摘む指先に力をこめてエヴァンジェリンが罵り、同時に横島が「ひぐぅ!?」と詰まった、ヒキガエルが車に押し潰されたような悲鳴を漏らす。そうした情景を、微笑ましげに見ていた詠春は、ようやくのことで横島に助け舟を出した。

「ところで横島さん。今回の事件の首謀者である天ケ崎・千草ですが」

 詠春の切り出した内容に、情けない表情をしていた横島は、詠春が話そうとしている話題に相応しい表情を浮かべた。隣で意地の悪い表情を浮かべているエヴァンジェリンも、何事かと表情をかえる。思えばエヴァンジェリンは、昨夜とどめの一発をぶっぱなした以外、一貫して今回の事件の局外に身をおいていた。千草の名前も今しがたしったばかりだった。たしかに、横島が常人であれば泣いて喚いているであろう痛みすら忘れたかのように振舞う理由が判らないだけあって、その豹変に驚くのも無理はない。

「今朝方、我々のもとに姿を現し、投降を申し出てきました」

 その言葉に、横島は、つーことは身代わりが騒ぎ出して云々のせいで慌てて私らが帰ったあとか、と思いながら、無言で先を促す。そんな横島に頷きつつ詠春は言葉を続けた。

「事情を知る警備の者が即座に捕縛――といっても、抵抗する様子がなかったそうなので手荒な真似はしなかったそうですが、ともかく、今は本山の一角で拘置しています。昨日の騒ぎのせいでばたばたしていますから、当面はそのままでしょうが、おって処断が下されることになるでしょう」

「そうっすか」

 ふぅ、と横島は溜息を漏らす。まぁ、あれだけの事件を引き起こしたんだ。軽い罰じゃあすまんやろうなぁ――そう思いつつ、横島はだが、無理を承知で言った。

「その千草ちゃんなんですが」

「なんでしょう?」

「彼女にゃ彼女の言い分があるわけですよねぇ? むしろ、今回の件は東と西がいままで等閑に伏してきた歪な状況――誰も当時のことをきちんと顧みないまま、なし崩し的に平和を享受してきたことに原因があるわけでしょう?」

「耳が痛い話ですが――まぁ、横島さんの仰られる通りですね」

「ですよねぇ? つまり、つまりですよ? 今回の事件は起こるべくして起こった――そういえるんじゃあないでしょうか。私は、まぁ、部外者ですから立ち入ったことは知りませんが、そう思えてならないんですよ」

「ふむ」

 横島の言わんとすることに興を覚えたらしい詠春は、おもしろがるような表情を浮かべると、横島に先を促す。

「まぁ、ぶっちゃけ情状酌量の余地はあるんじゃないでしょうか」

 どうぞ寛大な処置を願いますが如何なもんでしょう? 小首をかしげる横島に、詠春はますます面白がる表情を浮かべた。昨日のエヴァンジェリンとのやりとりでも感じたことだが、詠春の見たところ、凄腕の――冷酷非常な仕事人という風評とは反対に、横島というのは情の人であるらしい。でなければ、さして面識があるわけでもない千草に、無理を承知で温情をかけろと願い出るわけがない。いや、面白い。詠春は人の上に立つ人間として、この目の前の麗人の内心の中で、冷酷非常な始末屋としての面と、人情家としての面がどのようにしてバランスをとっているのか知りたくなった。とはいえ、口に出して尋ねはしない。彼は一組織の長であり、そうであるからにはそれ相応の人物鑑定眼をもっていてしかるべきだという常識を保持している人間であった。率直さを持たぬわけではないが、それも立場によると考えている。であるならば、そうした横島の心理は自分の眼で見極めるのが道理だと判断していた。

「仰られていることは確かに道理ですが」

 横島の言わんと欲することは理解した、と頷きながら、だが詠春は渋るような態度で口を開いていた。

「流石に、相応の処罰を下さねば示しというものがつきません」

 そりゃそうだよなぁ。横島は小さく溜息をついた。もし、千草が無罪放免となれば、それは関西呪術協会が叛乱を許容する組織だと受け取られかねない。無論、今回は動かなかった現状に面白からざる思いを抱いているものたちに、だ。組織の結束を乱すどころの話ではない。下手をすれば二つに分かれて内乱に発展しかねない。

「ですが、そこを曲げて」

 ないかなー? なんかないかなー? 横島は必死に考える。どうにかして、千草の罪を軽くする方法は、と。ポーカーフェイスを作ることも忘れてうんうん唸り出した彼女に、詠春は思わず吹き出しそうになる。やはり、この人は情の人間だ――そう思っている。詠春は、この面白い人物を見極めてみたいと思っていた。無論、それには時間がかかる。だが、その時間が詠春にはなかった。なにしろ横島は、今日の午後には京都を出て麻帆良に戻ってしまうのだ。だからこそ、詠春はすでに処罰について決断を下している千草の件であえて渋ってみせていた。横島が情の人であれば、これを使ってなんとか横島を西に引き込めないか――そう考えている。そして、このまま推移すれば、横島は自らそのことに重いたると思っていた。彼女には、それだけの価値がある。麻帆良を離れていたころに何度もアプローチしていた事実を、まさかそのアプローチしていた組織の長のまえで思い出せないということはないだろう。

 そして、しばらく沈黙が続き、

「ときに横島」

 沈黙を破ったのは、エヴァンジェリンであった。彼女は、妙に平坦な発音で横島に尋ねた。

「――――なんでございましょうかエヴァンジェリンさん?」

 その平坦さが醸し出す不気味な迫力に、横島はシリアスな表情を忘れてびびり入りまくったツラで恐る恐る尋ねたというか今このときにいたるまで横島のケツは両サイドから抓り上げられたままだったのでシリアスもへったくれもないのだが。見えないところで笑いに身体を張る女であった。

「よもや昨日、姿をくらませたのは女のところに行っていたからじゃあないだろうなぁ?」

「はっはっはイヤだなぁエヴァンジェリンさんなにをおしゃっておられるのですかわたくしめがそんなことをするはずなんてないじゃないですか」

「そうだよなぁ、うん。そうだよなぁ」引き攣った笑いを浮かべながら答える横島に、エヴァンジェリンはうんうんと頷いて。「――――かまわん、茶々丸。この莫迦のケツをもげ」

「イエス、マスター」

ぎあ――――――――――――――――――――――――――っっ!?

 やれやれ。

 詠春は苦笑を浮かべた。どうにも上手くいかないものですね。いや、あるいはこちらの意図が判っていて敢えて彼女はその邪魔をしたのでしょうか? であれば、これ以上、駆け引きを用いて何事かを為そうとするのはやめておいたほうがいいでしょう。流石に、復活した不死の魔法使いを向こうに回すのは得策とはいえないでしょうし。まぁ、千草嬢の処断を甘くすることで、横島さんに貸しを作っておくだけで満足とすべきでしょうね。

 それはそうとして。

 周囲の目を引きまくる二人プラス一体の織り成す狂態を何所か遠くに眺めながら、詠春は思った。

 ――――どうやって止めればいいんだ、これ。

☆★☆★☆

 帰りの新幹線は、いやに静かだった。横島は、ほぼ貸切といっていい状態になっている車内を見渡しながら、いつもこうだと助かるんだけどなぁ、と埒もないことを考える。誰も彼もが、若いパトスを使い果たすまではっちゃけたせいで、疲れ果てて眠っている。ほんとに、こうしてるとみんな可愛いんだが。

 起きてると可愛いだけじゃ済まない子たちばかっだもんなぁ。思いながら、眠りこける2−Aの面子の例外でなく、自分の前で天使のような寝顔を見せているエヴァンジェリンに視線をむける。

 思い出すのは、サウザンド・マスターの住居での彼女の様子。

 何所かに、誰かを探しているような落ち着かない視線。何かを期待しているような態度。憧れる父の面影に思いを馳せるネギとはまた別種の雰囲気を醸し出していたエヴァンジェリンの姿を脳裏にリフレインさせて、

「――――」

 横島は、小さく顔を歪めた。ちくりとした胸の痛み――もちろん、身体以外の何所かに覚えた痛みに顔を歪めたのだった。歪めて、横島は首を捻った。どうして胸が痛むのだろうか、と。エヴァンジェリンが、ナギ・スプリングフィールドに思いを寄せているのは知っている。であるならば、あそこでのエヴァンジェリンの様子も別段不思議なものでも、おかしなものでもない。むしろ当然といってもいい反応のはずだ。なのに、どうして自分はそれに痛みを覚えるんだろう。どうして、どうして、どうし――

「どうかされたのですか、横島先生?」

 ループに陥りかけていた思考は、エヴァンジェリンの隣に腰掛けていた茶々丸によって遮られた。無表情なはずの顔に、何所か心配そうな色が浮かんでいるように見えるのは横島の気のせいではあるまい。

「お体の調子が優れないのですか?」

「いや、ほら、その――」はて、わたしゃいったいどんなツラしとったんかいな、と反省しつつ、横島は誤魔化すようにして答えた。「ケツが痛くて?」

「――申し訳ありませんでした」

「ああ、いや、いいんだって。あれは悪いのは私だからね。それにほら、モゲても生えてくるし。ケツ」

「――――生えるの、ですか?」

「そこで真にされると困るんだが」

 珍妙な問答に、横島は苦笑した。とまれ、いろいろあった旅行だった。まぁ、なんやかやあるのは予想しとったけど。とにかく、莫迦騒ぎに満ちた旅行もこれでおしまい。もうじき、懐かしき平穏なる麻帆良に――

「――しまった、帰っても絶対莫迦騒ぎばっかりだ」

「よくわかりませんが、多分、それは正しいと思われます」

 うんざりした様子で言う横島に、茶々丸はしたり顔で頷いてみせ、列車は帰路をひた走り続けた。2−Aの面々を驚異と混沌に満ちた麻帆良の地へと。


『知ってるようで知らない世界〜 if 〜』第三十話『終わりの夜・決着のとき』了

今回のNG


「のぉ、チャチャゼロくんやぁ。ヒトの部屋で無言で刃物をを研ぐのはやめてくれんかのぉ? あと時折思い出したように不気味に笑うのも」

 しゃーこしゃーこ。

「いや、出番が無かったことにたいして言いたいことがあるのは判るんじゃが」

 しゃーこしゃーこ。

「ほ、ほら。丁度似たような境遇の瀬流彦くんも帰ってくることじゃし! 二人で呑みに行ったらどうじゃ? きっと赤提灯とか似合うぞい!?」

 しゃーこしゃーこ。

「うう、ワシはなんも悪くないのに」

どっとはらい




後書きという名の言い訳。

おーけぃ間に合った(※すげぇ冷汗ダラダラのツラで)。というわけで、辛うじて年内更新の仕儀と相成りましたが誰も信じてなかったんだろうナァ! などとちょっぴり切ない気持ちで一杯ですがどう考えても自業自得だ。つか、書き上げといてアレですが今回は普段にわをかけてグダグダですな。なんつーかやろうとしてたことが一厘ぐらいしか出来なかったというか。修学旅行編のメインヒロインたる千草嬢を描写しそこないまくりというか月詠が出張りすぎた。まぁ、俺が書いた文章でやろうとしたことの大半を出来ずにいるのは今に始まったこっちゃないので何時ものことといえば何時ものことなんですがな。それは兎も角、二〇〇六年も残り数時間、皆々様におかれましては来年がどうか良い年でありますように、とガラにもなく祈りながら、今日はこの辺で。あ、ちなみに今回で最終回な。



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