何時ものように――といってもそう頻繁にあることじゃないが――アルクェイドのマンションで彼女と一緒に午睡を愉しんでいたら、気が付いたら何時の間にかここにいた。

「あー、そういやぁレンも一緒に寝てたっけなぁ」

 俺――遠野志貴はそんなことを呟いてぽりぽりと頭を掻いた。目の前に広がる光景は、何処とも知れぬ深い森の中、そこにぽつり、といった感じで存在する開けた草原。ここには何度か来たことがある。まぁ、来ようと思って来たわけではないし、来ようと思っても来ることが出来る場所でもない。

「帰りはアレか、またバラされなきゃいけないのか」

 空に浮かぶ異様なまでに大きな満ちた月を一瞥して、呟く。ここから自分の知る日常に帰還する際の方法を思い出して俺は少しばかり憂鬱な気持ちになった。もちろん、実際にバラされるわけではないから構わないのだけれど、あの感覚はどうも好きになれない。というか、自分が細切れにされる感覚が好きで好きで堪らないなんて奴がいたらソイツは間違いなく変態だ。

 と、そこまで考えて俺は呆っと突っ立っているのを止め草原を歩き始めた。ここでこうしていても埒があかない。どのみち、帰る術は一つきりなのだ。だとしたら、あの自分の知る彼女とは違う、つっけんどんなお姫様のご機嫌でも伺いに行くのがいいだろう。

「まぁ、またけんもほろろ感じで扱われるんだろうけどなぁ」

 でもって、素気無くバラされる。ううん、行くの止めようか――

「アレは、いないよ」

「!?」

 思わずびくりとして、俺はその場から飛び退いた。いや、誰だって独り言にいきなり言葉を返されれば驚くだろう。うん、驚く。加えて、そこに自分しかいないと思っていたなら尚更だ。まぁ、俺の反応はいくらか過剰だったかも知れないけど。

 そうして、飛び退き振り返った俺の視界に映ったのは――

「くすくす」

 ――俺の反応が面白かったらしく、鈴の転がるような軽やかな声で笑い声をあげる一人の幼い少女だった。

 歳の頃は一〇歳前後、といったところだろうか。多分、人の姿をしたレンと大差ない姿だ。艶やかな黒髪は腰のほどまであり、纏っているひらひらとした飾りのついている黒いドレスに映えて酷く美しい。加えて、そのあどけなさの残る顔立ちは、神の手による造形としか思えないほどに整っており、美しいという一言で表現してしまうことに罪悪感さえ覚えてしまいそうだ。そんな少女の顔を、あっけにとられたまま眺めていた俺は、自分の視界に映る少女――初めて会ったその少女の存在をまるで昔から知っているような錯覚に囚われていた。何故だろう、と考えて、その答えに行き着く。

 ああ、この少女は――

「――アルクェイド」

 そう、あの吸血鬼のくせにまるで太陽のような印象をもつあのお姫様に似ているのだ。髪の色や、年の頃はまるで違うというのに、この少女にはアルクェイドを思わせる雰囲気があるのだ。

「違う」

 俺の小さな呟きを耳聡く聞き逃さなかったらしい少女が拗ねたように唇を尖らせて反駁した。

「私、アルクェイドじゃない」

 そう言ったあとで、小さく何事か呟いていたようだが、残念ながら聞き取れなかった。ただ、その呟きを漏らしている間、彼女は酷く悔しそうな顔をしていた。気のせいかもしれないが。

「キミは――」

「それより」俺が彼女に問いを発しようとすると、少女はそれを遮るように口を開いた。「行かないの? まぁ、行ってもアレはいないんだけどね」

「アレって――」

「朱い月」少女は俺の短い問いに端的に答えた。「知っているんでしょう?」

「いや、うん、知っているというかなんというか」

 知っている。自らを『アルクェイドの悪夢』と称するあの気高い雰囲気のお姫様。知っているどころか夢の中とはいえ殺されたほどの間柄だ。どんな関係だよ。

「私も知っているよ」

 返答に困りその場に立ち尽くしている俺を置いてすたすたとあの荘厳な城に向かって歩き出した少女は言った。

「ちょ、ちょっと待って――」俺は慌てて彼女の後を追う。「知ってるって、何を」

「キミのこと。志貴くん、でしょ?」

 くるり、とドレスのスカートをたなびかせながらその場でターンした彼女は、その美しい彼女に、アルクェイドのそれとは違った趣の笑み――アルクェイドが太陽だとすれば、この少女は月といったところか――を浮かべて俺の名を呼んだ。

「――どうして」

 俺の名を、と問おうとしたところで、彼女が笑顔のままに言う。

「アレは、私の夢でもあるから」

 そう言った彼女の笑顔がどこか陰のあるもののような気がするのはやはり俺の気のせいだろうか。そんなことを思いながら、俺たちは再びあの城に向かって歩き出していた。頭一つ――下手をすると二つ分ほど違う背丈の少女が、自分の隣を歩いている。それが気になって仕方が無い。信じられないほどに美しい、というのもあるが――

「――――」

 俺は盗み見るようにして、ちらりと彼女の方を見た。信じられないほどに美しいというのもあるが、この少女のことが気にかかる理由はもう一つある。てゆーかそっちがメイン。あー、なんだ、その。

 ――なんで猫みたいな耳がついてるんでしょう?。




けも−ぷり




 こう、艶やかな黒髪の間から、三角形でふさふさの獣耳が、ぴょこりと。それが、時折ぴょこぴょこと動いていて気になって仕方ない。あ、また動いた。うわ、動いた。動くってことは飾りとかじゃないよなぁ、うん。なんなんだろう、あの耳。気になる、気になるなぁ。

 散々悩んだ末に俺は一つの結論に辿り付いた。

 ――まぁ、夢だし。

 なんでもありなんだろうなぁ、多分。

 それは兎も角。

「そういえば、『朱い月』がいないって――アレはアルクェイドの悪夢でここはアルクェイドの夢の中なんだろう?」

 おかしいじゃないか、と俺は疑問を口にした。

「ああ、そうか」そんな俺の疑問に納得したのか、少女は何度か頷く。頷くたびに獣耳がぴょこぴょこと動くので気になって仕方が無い。「ここは、アルクェイドの夢の中じゃないの」

「は?」

 え、だって俺はアルクェイドと一緒に寝て、そのせいで俺はアイツの夢の中に来たんじゃ――

「あー混乱してる混乱してる」

 少女の発言で目を白黒させている俺の様子を見て、当の少女は面白そうにくすりと笑った。む、かわいいですよお客さん?

「ええっとね」そんな俺の当惑には構うことなく、少女は言葉を紡ぐ。頤に指を当てながら小首を傾げる様がなんとも愛らしい。「ここはね、『アルクェイドの悪夢』に私の夢を上書きした世界なの。ただの『アルクェイドの悪夢』だったらアルクェイドの中に眠る――というより、可能性として存在している『朱い月』が顕現するのだけれど、今は、もう一つの可能性の持ち主である私が意識を持った状態でここに存在しているから、アレは出てこれないのよ」

 後半は俺の質問に対する答えではなかったのだが、それでもここが何時もの場所ではないということは理解できた。うん、理解できた。で、彼女の表情に微かに翳があるのは気のせいか。

「さ、説明はここまで」ぱん、と手を叩いて少女は笑みを見せた。先ほど感じた影は微塵も見えない。やはり気のせいだったのだろう。「行きましょう? 彼女が待っているわ」

「待っている?」俺は首を傾げて呟いた。「誰が?」

 先ほど少女はこの夢の世界に、あの気位の高そうなお姫様はいないと言った。ならば誰が待っているというのか。

「あら、決まっているじゃない」そうも俺の呟きを聞きつけたようだ。少女は何を言っているの、とでも言いたそうな調子でのたまう。「アレがいないのだったら、この夢の中にいるのは彼女に決まっているじゃない」

 さ、早く――そう言って、少女は踊るような調子で草原をあの城へと向かって歩いていく。その歩調が弾んでいるように見えるのは気のせいではないだろう。どうやら、この夢のなかで俺――いや、俺たちか――を待っているという相手に早く会いたくて堪らないといった様子だ。無論、それは俺も同じだ。自然、俺の歩調も早くなる。先を行く少女の後を追って走るように進む。

 と、そのとき、さわり、と一陣の風が頬を撫でていった。同時に、

「――――」

 俺は声にならぬ声で小さく呻いた。軽やかな歩調で前を行く少女のスカートが風に煽られ、ふわり、とはためいた。それは一瞬。そう、ほんの一瞬の風の悪戯。だが、見てしまった、そう遠野志貴は見てしまった。捲れ上がるようにしてはためいたスカートの中に隠されていたものを。

(黒、か――)

 なんというか、あのあどけない容姿とミスマッチというかそこがまたグッとくるというかああ俺は何を考えているんだこういうのはどっちかっていうと有彦の領分で俺はそういう役割じゃないというかいやホントはちょっと得したな風さん風さん有難う――じゃなくて。M/p>

(尻尾?)

 そう尻尾だ。俺はスカートが捲れ上がったほんの一瞬、その一瞬だけ姿を見せたふさふさとした尻尾を確かに視界に捉えていた。いや、ショーツも見えたけど。ああ、違う。そうじゃない、そうじゃなくて!!

 まさか、尻尾もついているとは。獣耳だけならまだしも尻尾まで付けてきやがりますかこんちくしょう。これでいよいよあの耳が装飾の類ではないという可能性が高くなった。まさか、そうそう人目につくわけではないスカートの中に飾りの尻尾を仕込む奴もいないだろう。いや、着物の裏地に凝った刺繍を施すのが粋とかそういうのは置いておいて。

 ――まぁ、夢だしなぁ。

 深く考えないことにした。

 果たしてスカートの中身を覗かれたことに気付いていないのか、綿毛が風に踊るような軽やかな調子で草原を進んでいた少女と、それに続く俺は何時の間にか目の前に迫っていた城門の前で足を止めた。そこで少女はスカートの裾をはためかして、くるりとターン。つい、とスカートの両端を摘んで軽く持ち上げてこちらに会釈。

「ようこそ遠野志貴くん。在りし日の千年城へ――」


 誰が開けたわけでもなく自然に開門した城門を先行く少女に続いてくぐった俺は思わず息を呑んだ。そこは、確かに俺が何度か訪れたことのある彼女の居城だった。だが、そのくせにそこは俺の知っている彼女の居城ではなかった。俺の知っているあの城は、荘厳で静謐な空気に包まれた神殿――いや、墓所のような場所だった。だが、今俺が足を進めているそこは、まるで今にも住人がひょこりと顔を出してきても可笑しくない空気に包まれている。もちろん、荘厳で静謐という印象は変わらないのだが、俺の知っているあの城の中とはいささか空気が違う。喩えていうなら、生きているのだ。こう、全体的な雰囲気として。

「どう、志貴くん?」先を進む少女が振り返ってたずねてきた。「私たちの城は?」

 いいところでしょう? と少女は言った。数寸考えて、応、と頷く。

「いい場所だね」

 実際、心地良いと感じていた。あの、寂しいとしか感じられない城に比べれば、この城は『良い場所』だと素直に思える。少女は俺の返した答えに満足そうに笑った。

「まぁ、私には良い思い出ばかりというわけじゃないのだけどね」

 浮かべていた笑みを苦笑に変えてそんなことを言う少女。俺は眉をひそめる。この心地良い場所は『彼女の夢』のはずだ。なにしろ、少女自身がそう言っていた。だが、その少女がこの場所に良い思い出がない、というのは――

「いった、どういう――」

 ことか、と問おうとすると、先を行く少女の足が止まった。俺の問いを聞かなかったようにして少女は目の前にある豪奢な造りの扉に手をかけて言う。

「着いたわよ、志貴くん」

「着いたって、何処に」

 その問いに、少女は苦笑を浮かべる。

「決まっているじゃない。『彼女』のいる場所に、よ」

 言って少女は扉を開く。蝶番を軋ませる音のひとつも立てずに開かれた扉の先に広がる場所は寝室だった。いや、多分寝室。何故、多分かというと。

「広い――」

 うん、広い。かつて秋葉の寝室を訪れたときもその広さに辟易としたものだったが、この場所はそれすら比べ物にならないほどに広かった。ちょっとしたダンスホールほどはあるのじゃないだろうか。その莫迦みたいに広い空間を辛うじて寝室と認識できたのは、その空間の中心にベッドが置かれていたからだ。こう、映画なんかで見かける天蓋付きのキングサイズのどデカイベッド。それが部屋の真ん中にぽつねんと置かれていた。ある意味この部屋にこそ相応しいといえる豪奢なベッドにこれまたぽつねんと腰を下ろしているのは――

「――アルクェイド」

 だった。多分。いや、雰囲気からアルクェイドだと思うのだけれど、アレは本当にアルクェイドだろうか。本来なら肩口あたりで揃えられている金糸のような美しい髪はおそらく腰のあたりまで伸びていた。どちらかと言えば、その容姿はアルクェイドというよりも『朱い月』のそれに思える。加えて、髪以外の容姿も俺の知るアルクェイドとはいささか異なっていた。どう異なっているのかというと、その、幼い。俺をここまで案内してくれた少女ほどではないが、随分と幼い。人でいうなら中学に上がったばかり、とかそのぐらいじゃないだろうか。おかげで、あの豊満な胸が見る影もない。いや、女性の価値は胸じゃないからいいのだけれど。そして、

(また、獣耳か――――!?)

 そう、アルクェイドにも猫のような獣耳が備わっていた。傍目に見た感じでは本物としか思えないような獣耳が、こう、ぴょこん、と。

 どうやら彼女自身もそんな自分の容姿に困惑しているらしく所在無さそうな様子で視線を右に左に、と落ち着きが無い。と、その彼女の視線が俺の視線と交錯した。

「え、志貴――?」

 口にして、どうやら本格的に俺を認識したようだ。数瞬前まで困惑と当惑が手を繋いで仲良くラインダンスを踊っていたような表情が一転して喜色に満ちたものに変わる。なんというか、そんな表情をされるとこっちまで嬉しくなってくる。少なくても、外見が幼くなったとか獣耳がどうしたとかいうことが瑣末でどうでもいいことのように思える程度には嬉しくなる。いや、瑣末でもなければどうでもよくはないのだけれど、そこはそれ夢の中のことだし。

「志貴っ!」

 もう一度俺の名を呼んで、アルクェイドは喜色に満ちた表情のままこちらに駆け出そうとして、

「お久しぶりね? アルクェイド」

 苦笑交じりの少女の声が寝室内に静かに響いた。響いて、こちらに駆け出そうとしたアルクェイドの動きがぴたり、と止まり、そこで初めて少女の存在に気付いたといわんばかりの表情を浮かべた。

「――――アルトルージュ」

 ふむ、なるほどこの少女はアルトルージュって言うのか。そういえば自己紹介は無かったなぁ。俺の名前は知っていたっていうのに、どうにも不公平だと思えるが、まぁ、今こうして名前が判ったからいいか。しかし、知り合いだったのかアルクェイド。しかもあまり仲が良さそうな雰囲気じゃない。何故判るかというと、アレだ。あんな顔して名前を呼んで仲が良いとは思えない。どんな顔かというと、こう、肉食獣が自分のテリトリーを侵した相手に唸りをあげるようなというか、滅茶苦茶こわいんですが。

「志貴ッ!!」うぉっ!? 俺っスか!?「なんでそいつと一緒にいるのよ!?」

 返答次第ではただではすまさない、とばかりにアルクェイドが魔眼じみた視線をこちらに遣す。

「いや、この娘――アルトルージュっていうのか? アルトルージュとは城の外で一緒になってだな、その、なんだ」

 別段、やましいところがあるわけではないが、どうにもああ怖い目付きで睨まれるとしどろもどろになってしまう。うん、やましいところなんか一つもない。ないったらない。スカートの中身を覗いてしまったのは不可抗力というやつだし、なんか可愛い子だなぁ、などと思ってしまったのは健全な男子としてあたりまえの反応であった浮気とかそういうのじゃない、だから、睨まないでくれませんか? しっこちびっちゃいそうデス。

「久しぶりにあった姉を『そいつ』呼ばわりっていうのは酷いと思わない? アルクェイド」

 狼狽する俺を尻目に、少女――アルトルージュは苦笑交じりにそんなことを言った。

「って――」アルトルージュの台詞に思わず俺は声をあげる。「姉!?」

 姉って、アレですよね? 姉妹の上のほうの。ウチの双子さんで言ったらマジカルでアンバーな方。え、でも姉って!? どうみてもアルトルージュのほうが年下に見えるんですがっ!?

「本当よ、志貴」

 苦い虫を噛んだような表情でアルクェイドが言った。とりあえず睨むのはやめてくれたので一安心――そうじゃなくて。

「血の繋がりがある、っていうわけじゃないわ」俺の疑問を解したのだろう。アルクェイドが問われてもいないのに口を開く。「アルトは、私より先に『ブリュンスタッド』のかばねを継いだ――それだけ。それだけよ」

「まぁ、出来損ないだったんだけどね」

 アルクェイドの後をついで自嘲気味にアルトルージュは言った。朱い月の後継者として創られたのはいいが、力の制御に難があって、失敗作とみなされた。子供の姿をしているのは、そのほうが力を御しやすいから――そう語るアルトルージュの表情は、自分を嘲っているのか、皮肉げなものだ。そして、この少女に会ったときから感じていた『影』を連想させる表情だ。思わず俺は口を開いていた。

「そんなことを言うもんじゃない」考えなしに口を開いたなぁ、と思いながらも言葉を続ける。「自分のことを出来損ないだなんて、そんなこと言っちゃ駄目だ」

 その台詞に、アルトルージュは目を丸くして、

「優しいのね、志貴くん」

 苦笑を浮かべてそう言った。笑いは苦いものだが、さっきの表情よりはずっといい。それに、今、彼女が浮かべている表情には見るものを安心させるような暖かさに満ちている。なるほど、初見でアルクェイドと見間違うのも無理はない。この表情は、あの太陽のような吸血姫に酷く近しい表情だ。

「優しい、かな?」

「うん、志貴くんは優しいよ」

 笑みから苦いものを消して言うアルトルージュに、俺は思わず顔を赤くした。

「むー」

 どうやらそれがお気に召さなかったらしい。ベッドの真ん中でアルクェイドがそれはどうかと思うほどに頬を膨らませて唸った。

「ちょっと志貴、なに顔赤くしてるのよー!」

「む、そんなことないぞ」瞬間、自分も騙せないような嘘は相手を不快にさせるという恩師の言葉を思い出したが、そこはそれ。ケース・バイ・ケースというやつだ。下手に自分が紅潮していることを認めればまたぞろお姫様の機嫌が斜めになりかねない。「赤くなんかなってないぞ。ただちょっと可愛いなぁー、とか思っただけだ」

 ――オウ、シット。つい本音が。人間正直が美徳ってのは嘘だな。

「可愛いって何よー!?」お姫様が癇癪を起こした。ベッドをぼすぼすと殴りつけ喚く喚く。「だいたい志貴とアルトがなんで一緒にいるのよっ!?」

「だから、城の外でだな――」

「決まっているじゃない」同じ説明を繰り返そうとする俺を遮るようにして、アルトルージュが口を開く。「アルクちゃんを壊した子がどんな子だか、知りたかったからよ」

「壊したって、そんな」

「壊したでしょうに」何を言っているの、とアルトルージュ。「堕ちた真祖を狩るだけの存在――それもここ何世紀かはロアを狩るだけの存在だった私の妹を、こんなにしておいて何が壊してないっていうの?」

 そう言われてもなぁ。俺の知ってるアルクェイドは初めてあったときからこんなだったんだが――そう思っていると、

「おまけにヒトの大事な妹を傷物にして」

ぶっ!?

 なんかとんでもないこと言いましたよこのお子ちゃまはっ!?

「き、傷物って――」

「知ってるんだからね?」なんでもお見通しよ、と言わんばかりの視線をこちらに向けてアルトルージュが言う。「『朱い月』の夢を通じてアルクちゃんのことはなんだって知ってるんだから。貴方たちが何を何回やったかだって全部知ってるんだから」

 ――プライバシーってもんは無いのか。俺にゃあ。

「初めてのころは初心で生娘そのものだったアルクちゃんをあんな風に変えておいて――」

「わーわーわー!!」

 意味のない叫びをあげてアルトルージュの言葉を遮る俺。いや、この場には当事者しかいないから俺とアルクェイドの愛の営みについて開陳されることには特に問題はないんだが、やはりこう恥ずかしいものがある。

「だから志貴くん、私ねキミのこと恨んでいるのよ? 私のアルクちゃんを自分のものにしたキミを」

 もちろん、それと同じぐらい感謝もしているんだけどね、とアルトルージュ。

「ちょ、ちょっと!」そんなアルトルージュ――黒いお姫様にもう一人のお姫様であるところのアルクェイドが慌てたように言う。「『私の』って何よ! 『私の』って! 私はアルトのものなんかじゃ――」

「何を言っているの。妹が姉のものなのは当然でしょう?」それよりも、とアルトルージュ。「名前で呼んでもらえるのも嬉しいんだけど、出来れば『姉さん』って呼んでくれると嬉しいんだけどな」

「誰があんたなんかを――」

「アルクェイド」俺は何事かを喚こうとしたアルクェイドに声をかけた。「呼んでやれよ」

「な――、志貴、何を言ってるのよ!?」

 アルトルージュの肩を持つようなことを言った俺に、アルクェイドが目を剥いて言う。気持ちは判らなくはないが、こればかりは譲れない。おそらく、アルトルージュのアルクェイドを思う姉としての気持ちは本物だろう。言葉の端々からそれは理解できる。まぁ、その思いの方向性に多少問題があるような気もするが、そこはそれ、まぁ今はおいておくとして。

「二人きりの――この世で二人きりの姉妹なんだろう?」

 自分と秋葉――あるいは、翡翠と琥珀さんのことを思いながら俺は言う。この世で二人きりの肉親で、仲良くしないなんて――そんなのは駄目だ。例えば、俺が八年ぶりに秋葉と再開したときに、「兄さん」ではなく、「志貴」だなんて呼ばれたら――兄ではなく、まるで他人のように呼ばれたら――考えただけでもぞっとする。確かに、俺はいい兄貴じゃなかったかも知れないが、それでも、妹だと思っている相手に他人扱いされたら。それを思えば、アルトルージュに肩入れしたくなるのはしょうがないじゃないか。だから言う。

「呼んでやれよ、『姉さん』って。二人きりの姉妹なんだから――」

「――――志貴」

 詰まったような声で俺の名を呟くアルクェイドは、恐らく、俺の言葉の裏に存在する背景のことを思っているのだろう。少しばかり卑怯な気もするが――自分の愛したお姫様と、寂しそうな顔をするお姫様が笑い会えるためならば、卑怯者の謗りも甘んじようじゃないか。

「そう、ね」いくばくかの逡巡ののちに、アルクェイドは小さく頷いた。「そうよね、姉妹なんだもの――ね」

 そうして、アルクェイドは視線を――いや、顔を上にし、下にし、右にし、左にし、どこか照れたような顔で言った。

「姉さん」

「アルクちゃん――」アルクェイドの口から発せられた言葉に、アルトルージュは少しばかり信じられぬ、といった様子で呟く。「私のこと、姉さんって――姉さんって、呼んでくれるの?」

「何よ、そう呼べって言ったのはアル――姉さんでしょう?」

「え、ええ」自分の言葉に少しむくれたように言うアルクェイドに、当惑を隠しきれずにアルトルージュは頷いた。「ええ、そうなんだけど――」

「ちょ、ちょっと!?」言葉に詰まり、急に嗚咽を漏らし始めたアルトルージュに、俺のお姫様はわたわたと慌てる。「なんで泣くのよ!!」

「だって、ずっとアルクちゃんに『姉さん』って呼んで欲しかったんだもん」

 初めて自分の『妹』の存在を知って、顔を会わせてから――ずっとこちらを見てくれなかった長い間、ただそれだけを思ってきたんだもの。アルトルージュは、涙に――嬉し涙に濡れた声でそう呟いた。そんな『姉』の姿を見て、果たして自分がどれだけ思われていたのか。そして、どれだけその思いに答えてこなかったのかを知ったアルクェイドも、この小さな黒いお姫様につられたように涙を浮かべ、嗚咽を漏らし始めた。

 ――――ええ話や。

 姉妹の長い蟠りを超えて理解し合い、通じ合う光景に、思わず貰い泣きしそうになる。うう、涙腺が緩くなってるなぁ。男が泣いていいのは親が死んだ時だけだというが――俺の場合、実の親も義理の親も死んでしまっているので構わないだろう。感動的な光景を見て涙するのは人として当たり前の反応だ。

 しばし、莫迦みたいに広い寝室で涙する俺たち。

 む、そういやぁ。

「アルトルージュ、『姉さん』って呼んでもらうだけでいいのか?」

 ふと思ったことを口にしてみた。そんな俺の問いに、

「え、っと」数寸目を丸くし、アルトルージュは考え込み、次いで口篭った。「その……」

「何かあるんだったら――」もじもじとしているアルトルージュに言う。「言ってみたらどうだ? アルクェイドだって、折角姉だと認めてくれたことだし」

「そう、そうね」

 意を決したように、アルトルージュは俯きかけていた顔をあげた。

「ねぇ、アルクちゃん。そっちへ行っても――良い?」

「こっちへ?」アルトルージュの言葉に、アルクェイドは首を傾げる。「構わないけど」

「じゃ、じゃあ――」

 どこか躊躇うようにして、ベッドの上に乗りその中心に腰を下ろしているアルクェイドへと這い寄るアルトルージュ。そうして、果たして何をするつもりなのかと訝しんでいるアルクェイドの傍らに座ると、

「あ――――」

 自分の懐に引き込んで、自分の胸の中に収まったアルクェイドの頭を愛しそうに撫で始めた。

「ずっと――」胸のうちに抱いたアルクェイドの頭を撫でながら、アルトルージュは震える声で言う。「ずっと、こうしてあげたかった。アルクちゃんの頭を、撫でてあげたかった――」

「ねえ、さん……」

 最初は、驚き目を丸くしていたアルクェイドだったがアルトルージュに一片の害意も無い――それどころか、その表情に満ちているのは限りない妹への慈愛だけだと判ると、肩から力を抜いて完全にアルトルージュに身を任せ、されるがままになってしまった。

「アルクちゃん――」

 妹が自分を完全に信頼し、身を任せたことにアルトルージュは心底嬉しそうな顔を浮かべ、妹の名を呟いた。

 なんと、なんと美しい光景か。

 美幼女(※獣耳)に身を任せ頭を撫でられている美少女(※獣耳)、という図柄はおいておくとして、心を通い合わせた姉妹の交感のなんと美しく見えることか。

 いいなぁ。

 思わず俺はそんなことを考えた。よし、俺も目を覚ましたら家に帰って秋葉の頭を撫でよう。そうしようそれがいい。ああ、でもあの秋葉のことだ。照れて撫でさしてくれないかもしれないな。うん、もしそうなったら有間の家にお邪魔して都古ちゃんの頭を撫でよう。遠野の家に戻ってから随分と顔を合わせていないことだし丁度良い。

 なんてことを考えていたらアルトルージュがとんでもないことをしちゃったりなんかしてたりして。おわ、思わず広川太一郎風になってしまった。

「んん〜〜〜〜〜〜!?」

 アルクェイドが――唇をアルトルージュの唇で塞がれたアルクェイドが目を見開き呻いている。いや、そりゃまぁそうだろう。いきなりキス――それもとんでもなくディープなやつをかまされたんだから。

「あ、アルトルージュ! 一体何をして――」

 口を塞がれたアルクェイドの代わりに問いを発する。が、

「…………」

 シカトされた。こう、一ミリだってこっちを見ずにアルトルージュは妹の唇を貪っている。俺のことなどまさにアウト・オブ・眼中っていった按配だ。つーかエロっ! アルトルージュ、エロっ!! そんなエロいキスをする奴はいままで生きてきて初めてみたぞ――などといささか現実逃避している間にもアルトルージュはアルクェイドと唇を重ねている。あ、今、舌を入れた。アルクェイドの顔が更なる驚愕に染まる。耳を済ませれば、ちゅくちゅくと唾液の交じり合う音が聞こえてきてとんでもなくエロい。そうこうしているうちに最初は身を捩じらせて抵抗するそぶり見せていたアルクェイドが大人しくなっていく。見れば、その表情はとろん、としていてどこが締まりが無い。ああ、ありゃあ落ちたな。

 果たして、どのくらいそうしていただろうか。永遠にも思える長い時間アルクェイドの唇と口咥内を貪っていたアルトルージュが妹の、弛緩した顔から離れた。

「で、何? 志貴くん」

「は?」

「さっき私の名前を呼んだでしょう?」

 言われて、そういえばそんなこともしたなと思い出す。つーか気付いてたんか。

「あー、いや、何してるのかなー、と思いまして」

「キスよ」

 見れば判るでしょう? と言わんばかりの表情で言うアルトルージュ。いや、そうでなくて。

「なんで、キスなのかと」

 問い詰めたい、小一時間問い詰めたい。

「だって、ずっとこうしたかったんだもの」自分の胸の中で恍惚とした表情を浮かべているアルクェイドをいささか怪しい笑顔で見ながらアルトルージュはいう。「私の、完全品のこの子を、こうしたかったんだもの」

 ぞくり、とする。そのあどけない容姿にまったく似合っていない、そのくせ見事に様になっている妖艶な表情。その表情と得られた回答に唖然としている俺を一瞥すると、アルトルージュはくたりとした妹に手を伸ばす。

「あ、はぁ……」

 ふさふさとした毛で覆われた獣耳を指先で弄られたアルクェイドが艶のある声を漏らす。抵抗する意思は完全に失せているようだ。

「ふふふ」楽しげな、実に楽しげげな笑みを浮かべるアルトルージュ。「気持ちいいでしょう、アルクちゃん」

「ねえ、さん――あ、ひゃうん?」

 指先で弄ばれているのと反対側の獣耳を甘噛みされたアルクェイドがぶるっ、と身を震わせる。なんて――エロい。快楽に溺れていくアルクェイドの表情も、溺れさせているアルトルージュの表情も、とんでもなく――エロい。そうこうしているうちに、アルトルージュの空いている手がアルクェイドの白いドレス、その胸元に伸びる。リボンで飾られた胸元の生地の下に手を潜り込ませ、いつものアルクェイドよりもボリュームに欠いた胸を弄る。おそらくは、そこに存在する性感帯を触られたのだろう。アルクェイドがびくん、と身体を反らせた。

「うふふ、アルクちゃん、可愛い」

 妹の痴態に目を細めるアルトルージュ。同意する。まったくもって同意する。

「ねぇ」妹の身体を弄びながら、アルトルージュが俺に声をかけてきた。「志貴くんは、見てるだけでいいの?」

「な――――」

 誘われた。

「前をそんなにしておいて、我慢できるの?」

 その言葉に俺は思わず腰を引き、テントを張ったズボンを両手で隠す。この倒錯的な光景に俺の男は判り易いぐらいに反応していた。

「出来ない、でしょう?」

 これ以上ないぐらい妖艶な笑みで言われて、俺は思わず息を呑んだ。次の瞬間、俺はベッドに飛び込んでいた。床を蹴り、宙を舞う。舞っている空中で衣服を脱ぎ捨てる様はかの大怪盗の三代目のようだったとか。流石に「ふぅ〜じこちゅわ〜ん!!」とは言わなかったが。ベッドに着地したときには完全にクロスアウトしていた俺は、アルトルージュの腕の中で発情しきったアルクェイドに手を伸ばし、衣服を毟り取る。高そうなドレスが破られ、白く美しいアルクェイドの肌が露になる。中途半端に破られた衣服から覗くアルクェイドの肌はエロく、まるで俺がアルクェイドを犯しているような錯覚を覚えてしまう。

「なんて――」

 エロい。いかん、もう我慢できない。限界だ。気付けば、ぐっしょりと濡れているアルクェイドのショーツに手を伸ばしていた。

「ひぁっ!? 志貴、そ……こ、駄目ぇ――」

 薄く透けた布の上から秘部を触れられたアルクェイドが、熱の篭った声で悲鳴をあげる――が、止まらない。ブレーキの壊れたダンプカーのように俺はアルクェイドの身体を求めていく。

「や、あ、駄目、駄目ぇ」

 まるで、初めてそこを触られる生娘のように、俺の指が触れた途端アルクェイドはびくりと身体を硬直させるが――すぐに、俺とアルトルージュ、二人がかりの愛撫でふにゃふにゃと蕩けるようになる。瞬間、顔をあげアルトルージュと視線を交錯させ、

『やるな、おぬし』

『おぬしもな』

 と、アイコンタクト。さながら剣を交えた達人同士。そして向き合った達人同士はその技を競い合うというのが世の習い。つまりは、

「あ、や、ひゃうぅぅ、ふ、二人とも……あぁぁぁぁぁっっ」

 どちらがアルクェイドを気持ちよくさせられるか、という。四本の手と二つの口がアルクェイドの身体を縦横に蹂躙し、快楽の高みへと導く。ぷくりとしたアルクェイドの双房にアルトルージュが手を這わせれば、俺はアルクェイドの秘裂を撫で上げる。俺がアルクェイドの太腿を撫で擦れば、アルトルージュはアルクェイドの脾腹を撫で回す。攻防は一進一退、それは正しく戦いだった。そして、その激烈極まる闘いで最初に根をあげたのは――

「お、ねがい――もう、これ以上わた、し……もう、ちょう、だい――」

 アルクェイドだった。まぁ、二人がかりで弄られれば無理もないか。そんな妹の切なげな哀願を耳にしたアルトルージュがうふふ、と妖艶な笑みを浮かべてアルクェイドの耳元で囁く。

「あら、どうしたのアルクちゃん? ちょうだい、って何をかしら?」

 なんとも意地の悪い姉だろう。アルクェイドが何を欲しているか理解できていないはずもないだろう。いや、確かに知らぬものが見ればアルトルージュは十に届くか届かぬか、という容姿。知らぬのも無理はない――そう思うかもしれない。が、彼女はヒトの身ならぬ吸血姫。容姿はそのまま年齢を意味しない。それどころか、この地上に生きる人間――アルクェイドの爺やさんとかは別として――の誰よりも歳経た存在なのだ。

 まぁ、そんな小理屈を捻るよりも、彼女がニヤニヤと浮かべている底意地の悪い笑みを見れば一目瞭然なのだが。

「ねぇ、さん――」そんな意地の悪い姉に、アルクェイドが熱に浮かされたような涙声で哀願する「いじわる、しないでぇ」

「駄目よ」邪気の無い――だからこそ始末に負えない――笑みを浮かべてアルトルージュは妹の哀願を一刀の下に切り捨てた。「アルクちゃんには、これまでさんざん邪険にされたんだから、そのおかえしにいっぱい意地悪してあげる」

 なんてことを言いながら、アルトルージュは自らの零す蜜でねっとりと塗れ透けた妹のショーツ、そこに透けて見えるクレヴァスの頂上部分にある肉豆をこり、と弄る。

「ふあぁぁぁぁっ!?」

「さ、志貴くんにちゃんとおねだりなさい? 何が欲しいのか、ちゃんと」

 言わなきゃずっと苛めちゃうわよ? などとのたまいながら、指先でショーツ越しに肉豆をこりこりと刺激するアルトルージュ。ううん、エロい。その指先の動きもエロければ肉豆から脳髄に伝えられる感覚にびくびくん、と身体を仰け反らせるアルクェイドの反応もエロい。他人の情交を覗き(堂々と見てるが)見るのがこれほど興奮するとは思わなかった。出歯亀野郎の気持ちが理解できたような気がする。少なくても、昔有彦といっしょにアイツの部屋で観たアダルトビデオ(※裏)なんかよりもよっぽど興奮する。ああ、そういえばそれを鑑賞中に一子さんが部屋に入ってきてえらい騒ぎになったというか騒いでたのは有彦だったがそんなことはさておいて。

「し、志貴、志貴ぃ」姉の手ですっかり骨抜きにされたアルクェイドが艶を含んだいろっぽい声で俺の名を呼ぶ。「おねがい、ちょうだい、ちょうだいぃ」

「頂戴って、何を?」

 いかん。アルトルージュの加虐性が伝染った。口元がひどくにやけているのが判る。

「志貴までわたしのこといじめるの?」

 上目使いにこちらを見て、くすん、と鼻を鳴らす――むむ、容姿が普段より幼くなってることも手伝って破壊力が戦術核並みだ。年下趣味に目覚めちまいそうだ――そこ、昌ちゃんは? とか言わない。

「いじめてなんかないさ」嘘がすらりと口をつく。「ただ、アルクェイドの口からはっきり聞きたいだけさ」

 言われて、うう、とアルクェイドは躊躇うように唸り、

「うひゃう!?」

 ことさら強く刺激してくるアルトルージュの指先に甘い悲鳴を漏らした。漏らして、

「志貴の、志貴の――おちん、ちん、わたしに、わたしに頂戴――――!!」

 言った。男子の本懐ここに極まる。美少女に猥語を言わせるのは男のロマンとかなんとか口走っていた有彦ならこう言うに違いない。俺も、今、この瞬間だけは同意する。

 それは兎も角、

「よく言えたな、アルクェイド」

「素直になるっていうのはいいことよ」

 前後からアルクェイドを挟み込むようにして座っている俺とアルトルージュは、それぞれ両の耳に囁くように優しく労いの言葉をかける。

「志貴……姉さん…………あっ――」

 囁きかけていた耳、その柔らかな毛で覆われた獣耳を軽く噛んで、俺はアルクェイドをベッドの上に押し倒した。するり、とアルトルージュが脇に退くのを横目で見ながら俺の手で引き裂かれた純白のドレスであったものに身を包んでいるどうにも煽情的なアルクェイドの身体に手をかける。手を伸ばす場所は、

「ひぁ、志貴――」

 すでにびしょびしょになっているアルクェイドのショーツに覆われた部位。

「すごいな」思わず、口をついて出る言葉。「もう、こんなに濡れて――アルクェイドは、エッチだなぁ」

 むしろエロい。

「そんな――、それは志貴や姉さんが……ひぅぅ!?」

 ちゅぷり、とショーツの脇から指を滑り込ませ、クレヴァスに指を沈めてアルクェイドを黙らせる。マグマのように熱く、そしてどろどろになったそこはアルトルージュが焦らしに焦らし、けして手をつけなかった場所。

「こんなにしておいて、エッチじゃないって言っても説得力ないよ」

 それに、と俺は言葉を続ける。

「素直じゃないとご褒美、やらないぞ」

「志貴、それズルイよぉ……」

 涙目でこちらを睨んでくるアルクェイド。だが、

「ご褒美」

「ううぅ――」

「ご褒美」

「ううううぅぅ――」

 と、俯いてアルクェイドは観念したように口を開く。

「わ、わたしは――エッチな……エッチな女の子です」だから、とアルクェイド。「早く、早く志貴のおちんちんちょうだい!!」

 その言葉に俺はクレヴァスに潜り込ませた指を鉤状に曲げ、Gスポットを刺激することで答える。

「ひあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」

 びくびくん! とアルクェイドの身体が爆ぜる。俺の体の下でその身を激しく痙攣させ絶叫するアルクェイド。もしかして――

「アルクェイド、もしかしてイっちゃったのか?」

 その問いに、羞恥からかはたまた絶頂の余韻からか顔を赤くしてアルクェイドがこくん、と小さく頷いた。むぅ、いたす前にイってしまうとは。だけどまぁ、

「それもアリか」

 言って、俺はズボンに手をかけ、はちきれんばかりになったモノを自由にする。そうして、覆い被さるようにアルクェイドと身体を重ね――

「あぁ、志貴ぃ」

 蕩けるようになった彼女の中に入っていく。ちなみに、この場合、ショーツは脱がさぬのが粋というもの。ずらして横から、入れる。ずぶずぶと熱く濡れたアルクェイドの中は侵入してきた俺を溶かし飲み込むように受け入れる。外見と同じように、こちらのほうも少し幼くなったのかもしれない。気持ち狭いような。

「志貴、志貴の……いつもより大きいよぉ」

 いや、この場合、俺のが大きくなったのではなくアルクェイドのが狭くなったんだけどまぁいいか。しばらくアルクェイドの中でじっとして彼女の中の感覚を味わっていたが、なにやらアルクェイドがもじもじと物欲しそうに身体を動かすのを見て、そろそろ動くかと腰を動かす。

 ぬちゃり、と湿った音が響く。同時に、

「ひぅぅぅぅっ!!」

 アルクェイドの得も言えぬ嬌声がその口から漏れる。腰を動かすたびに、アルクェイドの肢体ががくがくと悦楽に震える。

「し、志貴、もうちょっとゆっくり――、さっきイったばっかりで……ひゃうぅぅ!?」

 手加減してくれ――そう言いたいらしい。が、そう言われても、

「ごめん」俺は腰を振りながら答えた。「アルクェイドのナカ、気持ちよすぎて――」

 腰が勝手に動いてしまう。ともすれば辛そうにも見えるアルクェイドの表情を見て、ペースダウンしようかとも思うのだけれど、そんな俺の意思に反して身体はもっとアルクェイドのナカを味わいたいと腰を突き動かす。まるで盛りのついたイヌみたいだ。

「や、ああ、志貴、志貴ぃ」

 切なそうな顔と声でアルクェイドが俺の名を呼ぶ。絶頂を迎えて間もない彼女の身体は、俺の激しい行為に限界が近いらしく、きゅうきゅうと蠕動し、俺のものを締め上げてくる。

「くっ、アルクェイド、もう――」

 まるで俺の精気を絞りとらんとするかのようなアルクェイドの具合の良さに、俺は詰まったような声を漏らしてしまった。

「し、志貴、わたしも――」

 どうやら、二人して限界らしい。ならば――

「や、志貴!? はげし――」

 見えてきた限界に向かって、俺はラストスパートをかける。アルクェイドの中から自分のものが外れ落ちそうになるほど引き抜いたかと思えば、今度はそれを根元までずぶりと沈み込ませる。振幅の大きいそんなグラインドを、可能な限りの速度で繰り返す。寝室には、俺の荒い息と、アルクェイドの涙と艶に塗れた嬌声、それに粘ついたいやらしい水音が絡み合いながら響く。シーツはすでにアルクェイドの俺に攻め立てられる秘裂から際限なく零れ落ちた蜜でぐしょぐしょになっていた。

「アルクェイド――」腰の奥から湧き上がってきた感覚――猛烈な射精感――を知覚して、俺はアルクェイドの名を口にする。「――出すぞ」

 途端、これまでにないくらい俺を包み込むアルクェイドの中がきゅうきゅうと締まる。

「出して、私のなかに、志貴の――いっぱい出してぇ!!」

「アル――クェイド!!」

 腰の奥が爆発したような錯覚と共に、アルクェイドのなかに大量に精を放つ。どうやらアルクェイドも同時に達してしまったらしく、身体をがくがくと痙攣させている。ひとしきり精を放ち終えると、しばらく余韻を愉しんでからアルクェイドのナカから自分のものを引き抜く。

「良かったよ、アルクェイド――って」

「あらあら」アルトルージュがベッドに横たわる妹を見ながらくすくすと笑う。「よっぽど気持ち良かったのね。失神しちゃうなんて」

「あー、ごめん」

 別に謝る必要はなかったと思うのだが、思わず謝罪の言葉が口をついて出てきた。

 そんな俺の様子が可笑しかったのか、アルトルージュはふたたびくすくすと鈴を転がしたように笑う。その笑顔が、傍らで気を失っているアルクェイドの天真爛漫なそれにどこか似通っている――そう感じて、姉妹というのもなるほど頷ける、そう思った。

「ところで志貴くん」

 そう声を俺に声をかけるアルトルージュの顔には、さきほどとは打って変わってまるで少女に笑いかけるチェシャ猫のような表情が浮かんでいる。む、これは何かよくない予感がする。と、いって無視するわけにもいかず、とりあえず返事をする。

「なにかな?」

「志貴くんは満足できた?」

 問いかけに、一瞬、なんのことだろう? と首を捻って――顔が赤くなる。今しがたアルクェイドと交わした情交は満足出来たか、と問われていることに気が付いたのだ。考えてみれば人前でいたすというのはどうにも恥ずかしい。いささか異常な状況であったとはいえ、よくあんなことが出来たものだ――と考えていると、アルトルージュがじっとこちらの顔を窺って返事を待っていることに気付く。

「あ、ああ。満足できたよ」

 とりあえず、答える。実際、アルクェイドの身体は随分と具合が良かった。嘘ではない。もしかすると、アルトルージュに見られているという事実が気持ちを昂ぶらせていたのかも知れない。だが、満足できた、という俺の答えを、

「嘘ね」

 とアルトルージュは一言で切って捨てた。

 む、嘘じゃない――そう言い返そうとする俺に、アルトルージュは畳み掛けるように言う。

「満足できたっていうなら」つい、とアルトルージュは視線を俺の顔から胡座をかく俺の股間におろして言う。「なんでそんなに元気なの?」

 言われて、はっとする。アルトルージュの視線につられるようにして見た俺の股間では、愚息がハッスルしていた。むぅ、一発出したというばかりなのに――このやんちゃ坊主め。

「満足してないんでしょう?」ふふ、と顔に似合わぬ妖艶な笑みを零しながらアルトルージュがベッドの上を俺へと向かって這い寄って来る。「ところで、志貴くんとアルクちゃんがしてるあいだ、私がずっと自分で慰めてたって気付いてた?」

 ――そう言われましても。こっちは、こう、アルクェイドとやらかすので手一杯だったからそんなこと気付くはずも――さりげにアルトルージュがとんでもないことを口にしたような気がするのは気のせいだろうか? 自分で?

「慰め……え、何を?」

「アルクちゃんと志貴くんがあんなに激しいのを見せ付けるから、ね?」

 エッチな気分になってきて――そう言ってアルトルージュは頬を紅く染めついと視線を外す。いや、そこで照れられても。

「幸い、志貴くんもまだ足りないみたいだし」

 すいません、何がどう幸いなんでありましょうか、サー?

「責任とって、ね?」

 何の責任でありましょうか、サー!?

「女の子にそれを言わせるつもりなの、志貴くん?」

「いや、そんなしな作って言われても! それに、俺にはアルクェイドが――」

 そこまで言いかけて、アルトルージュの表情に影がさすのが判った。,/p>

「やっぱり、アルクちゃんじゃなきゃ、駄目? 完璧な――」

「そういうことじゃなくて」むむ、俺の言い方に問題があったのか? 無かったと思うんだけど。あったのかなぁ?「完璧とか完璧じゃないとか、そんなことは関係なくて」

「だって」悲しげな表情を浮かべながら、アルトルージュは言う。「アルクちゃんが完璧だから、だから志貴くんはアルクちゃんがいいんでしょう?」「だから違うって。アルクェイドはアルクェイド。アルトルージュはアルトルージュだろう? 完璧だとか、そうじゃないとか、比べたりすることないじゃないか」

「じゃあ、志貴くんは私のこと抱いてくれる?」

 むぅ。それとこれとはまた話が別といいますかなんといいますか。

「ほら」再び、顔を暗くしてアルトルージュは俺の顔を――いや、両の眼を覗き込むようにして言う。「やっぱり」

 だから、それとこれとは別だってばさ。別だから、まるでそんな捨てられた仔犬みたいな目でこちらを見るのはやめないか? 有間の家にいるときのことだったか。あれはまだ、あの家に預けられてそう日を置いてない頃、学校の帰り、朝から降り続く雨に嫌気を催しながら有間の家へと向かう帰宅路で、雨水を吸いぐずぐずになったダンボールに入れられて捨てられていた仔犬を見かけたことがあった。ダンボール同様濡れ鼠になった仔犬――恐らくは雑種――は、ふと足を止めた俺の顔を寒さと孤独に震えた目で覗き込み――

「志貴くん」

 いやに昔のことがフラッシュバックした。畜生、だからそんな目で見ないでくれってば。ああ、くそ、そういえばあの仔犬も今のアルトルージュみたいなふさふさと――いや、濡れていたからふさふさしてはいなかったか? ――した耳と尻尾だったな。

「私を」

 畜生。あのとき、助けてやりたいとは思ったが、預けられたばかりの有間の家に遠慮して、俺はあの仔犬に手を差し伸べずにそのまま帰ったんだ。今にして思えば、あの仔犬を連れて帰ったところで、あの二人は少し困ったように苦笑したあとで飼うことを許してくれたに違いない。あるいは、俺が当たり前の子供のように、歳相応の我侭を言ったことを喜んだのかも。

「志貴くん」

 アルトルージュが俺の目を覗き込みながら俺の名を呼ぶ。それが、あの日の仔犬が思わず救いの手を差し伸べたくなるような目でこちらを見ている映像に重なって――

「駄目だよ」

 ああ、そうだ。俺にはもうアルクェイドがいる。

 だから、

「駄目だよアルトルージュ」

 そうさ。俺の手にはもうアルクェイドという存在がある。残念なことに、俺は二つの存在を同時に抱えることが出来るほど器用でもなければ、そんな甲斐性も持ち合わせちゃあいない。何時だって、手を差し伸べることが出来るのは一人だ。差し伸べたい相手は無数にいるとしても、だ。

「駄目なんだ」

 含むように、言って聞かす。そんな俺を見て、アルトルージュは小さく、

「ちっ」

 ――すいません、今、舌打ちしませんでしたか?

「あ〜あ、もう少しで落とせると思ったんだけどなぁ」

 …………まて。もしかして、今までのは。

「あら、まるきり演技ってわけでもないわよ?」

 嘘臭ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?

「本当だってば」アルトルージュは童女のように無邪気に笑った。傍らで失神している妹を優しげな視線で見ながら言う。「この子が好きになるだけあって、志貴くん、なかなか見所あるし。アルクちゃんのお気に入りじゃなかったら本気で私のモノにしてると思うわ」

「いや、だからと言って」「ふふふ、お礼よ、お礼。ずっとそうなったらいいなって思ってたことが、志貴くんの一言で叶ったんですもの」それにね、と彼女は言った。「志貴くんとアルクちゃんがシテるのを見て、昂ぶちゃったっていうのも本当。志貴くんとアルクちゃんがイクまで、私、自分の指で三回もイっちゃったのよ?」

 オウ、そいつはまた感じやすい御体で。

「でもね、ちっとも鎮まらないの。だからね、助けると思って――」

 アルトルージュが、ずいと体を乗り出して俺に迫りながら言う。幼い顔立ちに、妖艶な表情を浮かべた彼女の、発情した雌の体臭が俺の鼻腔を容赦なく刺激する。

「志貴くんのおっきなコレで、私をメチャクチャにして」

 怒張したマイ愚息に手を添えられながら、耳元で甘く囁かれたその言葉に、辛うじて抵抗を続けていた俺の理性はあっさりと敗れ去った。気がつけば、

「あんっ♪」

 アルトルージュの小さな肢体を乱暴に組み敷いている俺がそこにいた。レンと大差ない――いや、下手をするとレンよりも小柄な躯をふかふかのベッドの上に押し付ける。そんな俺の様子に、アルトルージュが満足げな笑みを漏らしている。

 ――むむ。

 見た目子供なアルトルージュにイニシアチヴを取られているというか、精神的に優位に立たれているようで何か面白くない。よーし志貴くん頑張ってアルトルージュ苛めちゃうぞー。

「え、むぅぅ!?」

 自分の思い通りに俺が動いたことに優越感を滲ませた笑みを漏らしていたアルトルージュの唇をいきなり奪取。突然の俺の行動に、アルトルージュは目を丸くしていた。もちろん、精神を平静に戻させる暇を与える余裕を与えるつもりはない。

 小さな桜色の可愛らしい唇に自分のそれを重ねた俺は、まさに貪るように、という形容が相応しい乱暴さでその感触を思う様味わう。唇の柔らかな感触を充分に愉しむと、そこを割って、自分の舌をアルトルージュの口内に侵入させる。粘膜で覆われた、暖かなそこを舌で蹂躙し、驚いたようになっている彼女の舌に絡ませる。

「ん、ふぅんんんん――んぅぅぅぅ!?」

 どうやら、俺とアルクェイドがイクまでに三回達したというのは嘘ではないらしく、舌を弄ばれたアルトルージュは、粘膜と唾液がいやらしい水音をたてるのに合わせるようにして、その小柄な肢体をびくびくと痙攣させている。キスだけでこれとは、ナイス感度。

 そうして、他の何もかもを忘れたように舌を絡ませながらディープなキスを続けていると、俺に口といい舌といい、好きなように蹂躙されているアルトルージュが、

「んんぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっ!?」

 というくぐもった声をもらした。嬲っていた彼女の唇を開放すると、とろんとした目つきのアルトルージュが、妖艶すぎる声で漏らした。

「あ、は――キスだけで、イかされちゃった」

 やっぱりか。組み敷く俺の体の下で、彼女の体が一際強くはねたことで、もしかしたら、と思ったが、やっぱりイっていたらしい。むーん、ホントに感度いいな。じゃあ、その感度の良さをもっと見せてもらうことにしよう。

「え? ちょ、志貴くん何を――」

 慌てるアルトルージュにかまいもせず、俺は彼女の体を抱き起こすと、それを腕のなかでくるりと回し、彼女の体をうつ伏せに倒した。その拍子に、ひらひらとしたスカートが捲れ上がり、その体型とはミスマッチな黒の下着(※ガーター付き)に覆われた可愛らしいオシリと、その少し上のあたりから生えているふさふさの尻尾が丸見えになる。

「やっ、し、志貴くん――ひあぁぁぁっ!?」

 抗議の声をあげようとしたアルトルージュだが、それもすぐに嬌声に変わった。ふさふさの尻尾を思い切り掴んでみたのだ。これが存外効いたらしい。弱点か。弱点なのか。サ●ヤ人か。

「し、しっぽ、しっぽつかんじゃ、だめぇ」

「駄目って言われてもなぁ」

 韜晦するように言って、俺は握った尻尾をぐにぐにと握りこんでみる。

「ひぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 やっぱ弱点か。というか、尻尾を握りこむ度に、アルトルージュがびくんびくんと背を反らせて反応するのが見ていて面白い。アレだ。縁日で売ってるカエルの玩具みたいだ。そんなことを考えて、調子に乗ってさらにぐにぐににぎにぎと握りこむ。

「やだ、や、やぁぁぁぁぁ!? だめ、だめなのぉぉ! しっぽだめなのぉぉぉぉっ!」

「尻尾握られただけで感じちゃうのか。やらしいなぁ、アルトルージュって」

「そ、そんなことないもん! やらしくなんて――ひぅっ!?」

 背を反らせ、顔をこちらに向けて反駁しようとしたアルトルージュを、尻尾を思い切り握ることで黙らせる。さて、握ってるだけじゃつまらないな。よし。

「え? あ、ちょ、だめっ! だめぇぇぇぇっ!?」

 ふさふさの尻尾を、軽めに握って思い切りしごきはじめると、アルトルージュが詰まったような泣き声を漏らした。尻尾を覆う艶のある毛のすべすべとした感触と、アルトルージュの痴態を楽しみながら俺は少しばかりサディスティックな気持ちで彼女を苛め続ける。

「だめ、だめ、だめぇぇぇぇ!」

 うつ伏せのまま激しく頭を振るアルトルージュに、俺は自分の体を覆い被せた。無論、尻尾をしごく手はそのままに。ついでに、もう片方の手でその可愛らしいオシリを揉みしだきながら。両の手から伝わる、異なった心地良い感触を愉しみながら、彼女のふさふさの毛で覆われた獣耳に口を寄せて、囁く。

「そんなに気持ちいいのかい? 尻尾」

 押し潰されたようになっているアルトルージュの体が、その言葉にびくんと反応する。同時に、尻尾とオシリを弄ぶ手の動きを止める。

「あ――――」

 与えられていた快楽をとりあげられたアルトルージュが、切なそうな声を漏らし、次の瞬間、しまった、とでも言いたそうな表情を浮かべる。そんなアルトールージュの獣耳を、俺は時折甘く噛みながら問いを重ねた。

「気持ちいいんだろ? 尻尾」

「――――」

 アルトルージュは、顔を逸らして答えない。長い時を生きた吸血姫としての矜持が、それを口にするのを躊躇わせているようだ。仕方ないな、と俺は溜息をつくと、大きな獣耳、その襞に舌を這わせ、そこに生えている産毛を唾液塗れにしたあとで、ぽかりと空いている耳孔に舌先を挿入する。

「ふあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 輪をかけて敏感なのか、耳孔に舌を入れられたアルトルージュは、魂消るような嬌声を漏らした。調子に乗って、耳という耳を唾液塗れにする。ふさふさとした毛で覆われた獣耳が唾液でべっとりとなった頃には、アルトルージュはすでに息も絶え絶えといった様子になっていた。ただし、イキそうになるたびに舐めるのをやめているので、彼女の昂ぶりが絶頂を迎えてしまうようなことにはなっていない。イキそうになるたびに、それを邪魔されるアルトルージュは、そのたびに俺を潤んだ瞳で恨めしそうに睨んでくる。

「気持ちいいんだろう?」

 生殺し状態をたっぷりと味あわせた俺は、あらためてアルトルージュにたずねた。その問いに、一瞬瞳を泳がしたアルトルージュだったが、俺が望んでいる答えを返さなければ、ひたすらおあずけされると理解したらしく、顔を真っ赤にしながら口を開いた。

「だ、大好きなの。気持ちいいの、大好きなの。だから――」

 恥らう美幼女っていいな。そっち系の趣味はないはずなんだが、俺はそんなことを考えた。誰だ、レンに手を出した時点でアレだとか言ってるヤツは。それは兎も角、素直な女の子には――

「じゃあ、いっぱい気持ちよくしてあげるよ」

 ――ご褒美をあげなくては。それまで、軽く握っているだけで止めていた尻尾弄りを再開。空いているほうの手で、その容貌とはアンバランスな印象を受ける――まぁ、そのギャップがまたグッドなんだが――黒のキワドイ意匠の下着に覆われた大事な場所も刺激。むろん、耳を唾液塗れにするのも忘れていない。

「ひぁっ!? や、し、き――くんっ! そこ、だめぇっ!?」

「そこって? 尻尾? 耳? それとも?」

「や、ぜんぶ、ぜんぶだめなのぉ! やだぁ! よすぎるよぉ!!」

 オカシクなっちゃう、というアルトルージュの声は、もはや耳にしただけでそれと判るほどに昂ぶっている。長い間焦らされたことも手伝っているのだろう。いつ、達してしまってもおかしくない状態だ。

「だめ、だめぇ! きちゃう! きちゃうのぉっ!!」

 むぅ。ホントに限界らしい。よし、武士の情け。ここは一気にイカせてあげることにしよう。俺は、尻尾を握る手に、ことさら力を込めて、ふさふさのそれをしごいた。加えて、すでにぐちょぐちょになっている下着の布地の上から、大事な割れ目に指の腹を押し付けるようにして沈みこませる。効果は覿面だった。

「ひぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」

 がくがくと、がくがくと俺の下でアルトルージュの小さな肢体が快楽の絶頂に跳ねるようにして痙攣した。見事なイキっぷりだ。そんなアルトルージュの痴態に、俺は仕事を成し遂げた職人のような爽やかな笑顔を浮かべ、額に浮かんでいた汗を拭い――

「うん?」

 耳に届いた異音に眉を顰めた。まるで、小川のせせらぎのようなそれはアルトルージュのいやらしくも可愛らしい股間から聞こえており、

「あ、や、やだぁ、とまらない? とまらないよぅ!?」

 羞恥と困惑に満ちた切なげなアルトルージュの声とともにベッドを濡らしていた。ベッドに、淫らな行為によって溢れ出た愛液で出来たものとはまた違ったシミが広がっていき――つまるところ、この見た目お子ちゃまな吸血姫さまが、盛大に粗相していた。

「あー」

 うむ、どうしたものか。目の前で広がっていくシーツのシミを見て、しばし困惑したが、初対面の男の前ではしたなくも粗相してしまったことに対する情けなさからか、くすんくすん、としゃくりあげる(うつ伏せになり、こちらに恥ずかしい箇所を見せ付けている)アルトルージュを見ていると、困惑を押しのけてサディスティックな欲望がムッシュムラムラと湧いてきた。

「駄目じゃあないか、アルトルージュ」笑いを含んだ声で、俺は口を開いた。「トイレでもないのに、オシッコしたりしちゃあ」

 その言葉に、アルトルージュがびくんと躯を震わせた。こちらの様子をちらりと窺うその表情は歳経た吸血鬼のそれではなく、見た目相応の幼い子供が叱られることに対してみせる怯えたそれだった。むぅ、妙なスイッチが入って退行現象でもおきたんだろーか。

「あ、う、ごめん……なさい」

 うむ。子供は素直なのが一番。だがしかし、ごめんですめば警察はいらんのである。

「ほら、シーツもこんなにグショグショにしちゃって」

 アルトルージュの可愛らしい謝罪が聞こえなかったかのような調子で、俺は言葉を続ける。

「イケナイ子だなぁ、アルトルージュ。そんなイケナイ子には、おしおきだ」

 言って、俺はふりふりの装飾のなされたスカートが捲れ上がって丸見えになっている、幼女の外見には不釣合いな大人びた黒い下着で覆われたアルトルージュのおしりに平手を。判りやすい表現で言うとおしりペンペンである。

 パンっ、と乾いた音とともに、

「きゃうんっ!?」

 と小さなアルトルージュの悲鳴が室内に響く。それに構わず、二度、三度と俺はアルトルージュのおしりを打ち据える。その度に、乾いた音と悲鳴が響き、

「ふっ、く、うふぅ……」

 やがて、アルトルージュのすすり泣くような声が聞こえ始めてきた。

「ごめんなさい、もうしないからぁ。おしり叩くのゆるしてぇ」

 ――イカン、マヂ泣きだ。どうやら調子に乗りすぎてしまったらしい。いやしかし、泣かれるとは思わなかった。本気で子供に戻ってるんじゃなかろーか。

「あ、ああ。ゴメン。調子に乗りすぎた」

 サディスティックな欲望をあっさりと下して頭をもたげた罪悪感に素直に従い、俺はアルトルージュに頭を下げる。同時に、綿毛のように軽い彼女の体を抱き起こし、自分の膝の上に座らせるようにして、その頭を撫でた。

「ゴメンな、痛かった?」

「う――ん」

 俺の腕の中で――あるいは膝の上で――、アルトルージュは悠久の時を過ごしてきた吸血姫として、おしりペンペンを喰らったという恥ずかしさからか、顔を赤らめながらこくんと頷いた。

「いや、ほんとゴメン」

「ん。もう、いい」

 いまだ子供のような態度でアルトルージュは俺の謝罪を受け入れ、かつ、許してくれた。ええ子だなぁ。しばらく、アルトルージュは俺の膝の上で、頭を撫でられつづけ(どうも気持ちがいいらしい)、室内にまったりというか穏やかな空気が漂う。だが、

「志貴くん」

「ん? なに?」

 アルトルージュの言葉で、

「硬いままだね」

 その穏やかな空気ともセイ・グッバイ。

「硬いって――――うお!?」

 あんな穏やかな雰囲気の中にあってさえ、俺、遠野志貴の愚息はハッスルしたままだった。ええい、少しは空気読めよ、この聞かん棒めっ!

「ね、志貴くん」

 俺の腕の中のアルトルージュは、そんな情けない思いの俺の顔を上目遣いで覗き込み、

「このまま、しよっか?」

 などとのたまいました。瞬間、俺の脳裏に先程までのアルトルージュのあられもない痴態がフラッシュバックし――

 ――ああ、それは、とても。

 彼女の誘いに、うん、と答えようとしたところで。

「あ――――――ッッ!? 志貴と姉さんなにしてるのよ――――――ッッ!?」

 もう一人の吸血姫さまがお目覚めになられまった(※小松のオヤブンふうに)。

 それから、思い出すのも嫌になるような騒ぎが起こり――

 ――気がついたら、アルクェイドのマンションで目が覚めていた。

「えらい夢だったな」

 いまだ眠り続けるアルクェイドの横顔眺めて、俺は苦笑を浮かべながら呟いた。うん、前半のエロさ加減も、後半のはっちゃけ大暴走ぶりも含めてえらい夢だった。まぁ、後半のそれは最近の遠野家では珍しくもないというかなんというか。

 ――俺、良く生きてるよなぁ。

 思わずそんな溜息を漏らしてから、ベッドから出る。アルクェイドが起きたとき、あの夢のことを覚えてるかどうかしらないが、もし覚えてたときは非常にアレだ。ここは一つ、ラーメン(大蒜抜き)でも作ってご機嫌を取るとするか。

 ――そんなことを考えながらキッチンへと向かう俺は、まさかあのロリぃな吸血姫さまがはるばるヨーロッパからやってきてリアルで夢の続きをせまってくるなど、それがもたらす騒動に巻き込まれるなど判るわけもなく。


どっとはらい


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