いつかのやくそく




 カーテンの隙間から差し込む陽が教える時間は、朝。耳を澄ませば、ガラス窓を隔ててさえなお、小鳥達が囀る心地良い声が耳を擽る。紛れも無い、良い朝。

 黒猫は陽の光りに目を覚まし、ぐっと身体を伸ばし欠伸を一つ。

「おはよう、ブレンヒルト――って」

 あれ? と黒猫は小首を傾げて己が主を見た。主――ブレンヒルト・シルトはいまだベッドと毛布の中に身を沈めたままだった。

「お寝坊さんかい? だらしないなぁ」

 折角の日曜なんだからさ、と黒猫はベッドの上に軽くジャンプ。猫特有のしなやかな動作で着地。柔らかい毛布越しに主の身体、その感触を肉球に感じながらブレンヒルトの顔へと近づく。

「外はとっても良い天気だよ? そりゃあ昨日遅くまで新作にとりかかっていたから眠いのは解るけど勿体無いよ? それに今日はUCATに用があるんじゃないのかい? さぁ、起きようよ――?」

 言って、黒猫は自分の主の様子が面妖しいことに気付く。

「どうしたんだい、ブレンヒ――、うわ、すごい熱!?」

 軽く前肢で触れたブレンヒルトの頬が熱く発熱している。風見をして『セメント独逸娘』と言わしめるその顔にはうっすらと汗が浮かび、苦しげに荒い息を繰り返している。

「うわ? ど、どどどどどどどどどどどどどどうしよう!?」黒猫は薄い主の胸の上でおろおろとうろたえた。「ねぇ、ブレンヒルト! だ、大丈夫!?」

 黒猫の問いに、帰ってくるのは声ならぬ苦しげな呻きのみ。あきらかに大丈夫ではない。

「うわ、ちっとも大丈夫じゃなさそう」

 そういえば昨日美術室でキャンパスに向かっていたときもなんかけほけほ言ってたなぁ、と思い返しながらそれどころじゃないやと黒猫は焦る。

「どうしよう」

 今日は日曜で、寮に残っているものは少ない。それ以前に助けを求めようにもブレンヒルトは熱にうなされ前後不覚意識は朦朧といった状態であり自力で助けを求めに行けそうにもない。もちろん猫の自分が残っている寮生に、「すいませんうちのブレンヒルトが熱出しちゃって大変なんですけどひとつ助けてくれませんか?」などと声をかけるわけにもいかない。というか、そんなことしたらあとで絶対ブレンヒルトにしばかれるってーか拷問折檻のあとでとてもじゃないが人には言えないような恥ずかしいことをされるに決まっている。却下。

「どうしよう」

 黒猫はもう一度呟いた。眼下では整った顔に汗を浮かべたブレンヒルトが苦しげに呻いている。考えろ、考えるんだ、僕。

 窓の向こうから聞こえてくる小鳥たちの囀りと足元から聞こえるブレンヒルトの苦しげな荒い呼気をBGMに、焦燥という感情に追いたてられながら黒猫は必死に頭を全力回転。

「どうしよう」

 全力回転させたからといって常に名案が浮かんでいれば誰も苦労などするわけも無く、やはり黒猫は同じ言葉を三度口に。

「――あ、」

 思考停止を意味する語彙を口にした途端、黒猫の脳裏に思い浮かぶことが一つ。確かに自分は猫であり人前で矢鱈滅多に喋繰るわけにはいかないが、例外というものはどこにでもいる。この場合は、自分――というよりもブレンヒルトの素性を知る人間だ。

「――よし」

 対応策が決まればいつまでも愚図愚図しているのは愚の骨頂。黒猫はひらりと主の胸元から飛び降り、

「待っててね、ブレンヒルト」ちらりと己が主に振り返り励ましの言葉をかける。「すぐに助けを呼んでくるから」

 ドアの向こうへと一目散に走り出す。



「駄目だ」

 寮室の廊下で黒猫はは絶望の意を含む言葉を漏らした。眼前には閉められたドアがあり、部屋の主を示すプレートには『出雲・覚/風見・千里』とある。すなわち黒猫とその主であるブレンヒルト・シルトの素性を知る全竜交渉部隊の前衛ツートップ二人組みの部屋であり、かつてペットに飢えている千里に一時連れられてきたおかげでその場所を知る唯一の関係者、その部屋なのだが。

「いないみたいだ」

 ドアをカリカリと引っ掻いてみたりこの場合まさにそう呼ぶに相応しい猫撫で声を出してみたりと(普通に呼びかけるのは流石に誰かに見られた場合問題になるので却下)散々ドアの向こうに呼びかけてみたがさっぱり反応がない。もし、部屋の中に風見・千里がいるのなら猫がドアの向こうにいると解った時点で飛んで出てくるだろうからこれはいないと考えるのがもっとも妥当だろう。

「――そういえば」

 ブレンヒルトが全竜交渉のことでUCATに用があるっていってたけど、風見・千里もそちらの方に行ってるんだろうか。

 もし、そうだとすればこれまた自分と主の素性を知る人間である佐山・御言もいないと見るべきだろう。もっとも、寮に残っていたとしても部屋がわからないのでどうしようもないが。

「どうしよう」

 風見・千里に頼る――思いついた時には自分の頭の良さに自画自賛したい気分だったが、寮にいないというのは考慮していなかった。迂闊。

 今日何度目になるのかわからない言葉を口にして、自分がすっかり思考停止状態に陥っていることに気付き黒猫は自分の頬を肉球で張る。こうして途方に暮れている間にもブレンヒルトは熱にうなされ苦しんでいる。考えろ。

 部屋に戻って自分で看病する。却下。猫の身である自分に出来る看病って何だおい。

 UCATまでひとっ走りして風見・千里あるいは佐山・御言に助けを求める。却下。時間が掛かり過ぎるし自分はUCATが何処にあるのか知らない。

 駄目だ、さっぱり良い考えが浮かばない。黒猫は碌な考えが浮かばない自分の頭に絶望し途方に暮れかけた。いっそのこと誰か寮に残っている人間に自分が声をかけて助けを求めるか?

 黒猫はそう考えて頭を振った。

 駄目だ。それこそ駄目駄目の駄目だ。とりあえずは何とかなるかも知れないけど、下手をすれば僕もブレンヒルトもこの学校にいられなくなる。そんなの駄目だ。せっかく彼とのわだかまりが解けたってのにそんなことで彼とブレンヒルトを離れさせるなんて――

 ――彼?

 黒猫ははっと顔をあげた。

 そうだ。ここには風見・千里や佐山・御言よりもまず先に頼ることのできる彼がいるじゃないか。どうしてそのことを真っ先に思い浮かべない?

 黒猫は自分の思い至らなさに歯噛みする。歯噛みすると同時にその小さな四肢に力を込めて走り出す。急げ、僕。

 ここで無為に時間を費やしていたあいだにもブレンヒルトは苦しんでいるんだ――独りで。急げ、僕。

 黒猫は廊下を疾走。寮を飛び出し、彼のいる場所へと走る。疾る。

 息せき切らして辿り着いたのは図書館の扉の前。

 荒い息を整えようともせずに黒猫はその扉に爪を立てて掻く。中に彼がいてくれますように、と願いながら。

 果たして彼の願いは叶えられた。

「扉に傷がつくので爪をたてるのはやめてくれたまえ」

 蝶番を軋ませることもなく開いた禿頭の老人は黒猫に声をかけた。その姿を見、声を聞いた黒猫は張り詰めていた糸が切れた操り人形のようにその場にずるずると崩れ落ちるようにしたへたりこんだ。そこで、口には出さずに自分に喝を入れる。安心してる場合じゃないだろ、僕! 早く助けを請え!!

「おねがいです――」



 額に感じるひんやりとした感触がひどく心地好くて、彼女はゆるゆると瞼を開いた。視界に飛び込んでくるのは鮮やかな紅色に染め上げられた自室の風景。ふと窓に目をやれば山の稜線に陽が紅く燃えながら落ちていこうとしていた。

 ――丸一日寝てたってわけね、私。

 彼女、ブレンヒルト・シルトは吐息をひとつ漏らしながら磁器人形にも似た整った顔を少しばかり歪めて思う。今日はUCATに行かなくちゃいけない日だったのに。よりによってそんな日に寝過ごすなんて。

 陽が暮れようとしている時間帯に目を覚ましておきながらそれを『寝過ごした』などというイギリス人が好むところの間接的表現というものでも追いつかない一言で片付けてしまったことには疑問の欠片も感じない。それよりも、適切な時間に自分を起こさなかった黒猫に怒りを覚える。

 主人の役に立ってこその使い魔でしょうに。

「あとで拷問折檻陵辱のトリプルコンボ決定ね」

「それはいかんな」

「!?」

 ぼそりと呟いた(剣呑な内容の)独り言に言葉が返ってきたことに驚いたブレンヒルトはガバっ、とベッドから身を起こして声のした方を見る。そこには、ベッドの横に椅子を置いて腰掛ける長身初老の男性が。黒いベストにトルーザー。禿頭に白い顎鬚の彼の名はジークフリート・ゾーンブルク。ブレンヒルトが通う尊秋多学院の図書館、衣笠書庫の司書であり、ブレンヒルトの故郷である1st−Gを滅ぼした――ことになっていた男。

「女性の部屋に断り無く入室するのは礼儀に反するとは思ったが事情が事情だったので失礼させてもらった」

 仇敵――かつてそう思っていた男は何ら表情を浮かべずにそう口にした。

「キミの猫を責めてはいけない。彼は自分の主人のために奔走したのだからな」

「――私のために、奔走?」

 ジークフリートの言葉にブレンヒルトは小さく首を傾げる。それを見たジークフリートは小さく頷き、

「そうだ。彼は目を覚ますと自分の主人が発熱し、高熱にうなされていることを知り私に助けを求めにきたのだ。彼に感謝しておくといいだろう。ああ、それから最近は暖かくなってきたとはいえ、夜は冷える。それゆえ日中との気温差に身体が馴染めず体調を崩しやすい。夜更かしなどをしているとその傾向が顕著になる。気をつけたまえ」

「熱を出して、猫が貴方に?」

 ジークフリートの発言の後半は聞き流したブレンヒルトは彼の語った言葉の前半についてだけ考えた。見れば先ほど身体を起こした際に落ちたのだろう。塗らしたタオルが自分の膝元に落ちていた。

 額に感じた冷たい心地好さは、これね。

 さらに見れば、ベッドの横に冷たい水をたたえた洗面器。

 ――ジークフリートが、看病をしてくれていたの? そこまで思って彼女は不意に気が付く。

 自分のパジャマが、昨夜袖を通したものと異なっていることに。

 ブレンヒルトがその事実が何を意味するか理解する前にジークフリートが口を開いた。

「失礼だとは思ったが随分と汗をかいていたので寝間着を脱がさせてもらったうえで身体を拭かせてもらった」

「!!」

 瞬間、ブレンヒルトは自分の膝から下に掛かっていた毛布を物凄い勢いで引き寄せ、それで自分の身体を覆う。急速に自分の顔が赤くなるのを知覚。

 ――見られた。

 毛布の下でジークフリートには解らないようにショーツの手触りを確認。さー、っと血の気が引く。ショーツについているささやかな飾りの感触が、自分が寝る前にはいたものと異なっていた。

 ――全部、見られた。

 赤くなった顔が、一度蒼くなり、再び赤くなる。その赤さたるや今にも顔面から煉獄もかくやという炎が噴き出そうなほど。

「――見たの?」

 赤色巨星もシャッポを脱ぎそうなほどに赤くした顔を毛布につっぷして、声を震わせながらブレンヒルトは尋ねた。

「何を、と尋ね返すのは礼儀に反するのだろうな」

 相変わらず表情を変えずにジークフリートは口を開く。

「見たの?」

 答えになっていないジークフリートの言葉に、ブレンヒルトは再度問う。

「いや」ジークフリートは否定の言葉を口に。「見てはいない」

「嘘っ!!」

 ガバっ、と毛布から真っ赤な顔をあげてブレンヒルトは非難の言葉を吐いた。

「見ないでどうやってパジャマを脱がして――」

「キミの猫に手を借りた」

 ブレンヒルトの言葉を聞き遂げる前にジークフリートは答えを返す。正確には手ではなく目をだが、と付け加える。

「試したことはないが、二人羽織をしているような感じだったな。目を閉じている私の代わりにキミの猫にナビゲートを頼んだ――」

 ――猫が。

 ブレンヒルトの顔に浮かんでいた様々な感情から険の一文字がすうっ、と消える。とりあえず拷問折檻陵辱のトリプルコンボから拷問と折檻をはずしてやるか、と彼女が考えているとジークフリートが一言。

「――触らないわけにはいかなかったが」

 瞬間、少しずつ赤色が薄くなっていたブレンヒルトの顔面が先ほどにも増して赤くなった。あまりに赤くなったので顔面の毛細血管に負担が掛かりすぎてエボラ出血熱に罹患したかリー・リンチェイに針で妙なツボを突かれでもしたように顔中から血が噴き出すのではないかと思ってしまうほどだ。

 そのおそろしく顔を赤くしたブレンヒルトは意味を持たぬ大げさなボディランゲージを行いつつ何事かを口にしようとしながら結局は言葉が見つからないで酸素を求めて水面に顔を出す金魚のように口をパクパクとさせていたが、しばらくしてやはり先ほどと同じように毛布に顔をつっぷした。

 そんなブレンヒルトの様子をしばらく見ていたジークフリートは何か言葉をかけようかと考えたが、まさか野良犬に噛まれたとでも思えというわけにもいかない。それは紳士たるものが淑女にたいして掛ける言葉ではない。結局口にしたのは、

「どうやらだいぶ回復したようなので私はこれで失礼させてもらうとしよう」

 という言葉だった。

 言うと同時にジークフリートは椅子から腰を浮かす。ドアに向かおうとして、

「?」

 顔に怪訝という名の表情を浮かべる。服の端をブレンヒルトが握り彼を引き止めていた。

「女を辱めておいて」顔をつっぷしたま彼女が声を出す。「碌な言葉もかけずに何処へ行くと?」

「辱めたわけではない」ジークフリートは聞き分けの無い子供に対する教師のような口調で言葉を返す。「非常時における緊急避難だ」

「カルネアデスの板ってわけ?」

 売り言葉に買い言葉、というわけではないが、あくまで冷静な返答を返すジークフリートに感情的になったブレンヒルトは毛布から少しだけ顔をあげて挑むように彼を見ながら一言。

「流石に自分の故郷のために姉さんやレギン先生を殺した男は言うことが違うわね」

 言って、後悔という名の感情が彼女の心を激しく苛んだ。あの日、冥界から現れたグートルーネの取った態度から彼が自分の口にしたようなことをしていない――その証明だったはずだ。

 それに。

 彼は約束を守って小鳥を預かっていたではないか。

 それなのに。それなのに自分は言ってしまった。

「――申し開きのしようもないな」

「!!」

 後悔に染まっていた彼女の心に怒りにも似た感情が湧いて出た。

「どうして!」

 気がつけばベッドから跳ねるようにして起き上がりジークフリートの胸倉に掴みかかっていた。

「どうして言い訳しないのよ!!」

 抑えていた感情のスイッチが完全に入っていた。心の奥底から次々と沸いて出る疑念が口をついて飛び出す。

「あのときの姉さんの顔を見れば私たちが六〇年間抱いてきた恨みが間違いだってことぐらい解るわよ!!」胸倉を掴む両の手に痛いほどの力を込めながらブレンヒルトは思いのたけを叩き付ける。「なのに、どうして貴方は何も言わないの!!」

「言ったところで」親しい者であるならば気付く程度に感情を込めた言葉をジークフリートは口にした。「私がキミ達の故郷――1st−Gを救えなかったことに代わりはあるまい?」

 ジークフリートの言葉に、ブレンヒルトの胸裏に失われたモノたちの未だ色褪せることの無い記憶が去来する。幾つもの記憶の中には、優しい姉や親しい老人のことが。

 そして、小鳥とそれを救ってくれた優しい侵略者が。

 ジークフリートの胸倉を掴んでいた両手からすうっと力が抜けていく。

「だからって――」力なくその場に座り込んだブレンヒルトはかつての優しき侵略者の足元で震えた声を絞り出す。「だからって、何も貴方が全部背負いこんでいくことはないじゃない」

「本当なら墓の中まで持っていくつもりだったのだがな」

 矢張り、聞き様によっては感情を込めていないように聞こえる口調でジークフリートは短く言葉を漏らす。

「誰にも語らずに」

 黒衣の老人、その足元でブレンヒルトは尋ねるでもなく同じように言葉を漏らす。

「誰にも語らずに」

 足元の少女の言葉を反芻するように繰り返したジークフリートの言葉を最後に、室内に沈黙の時間が訪れ、その場をしばし支配した。その支配を打ち破ったのはブレンヒルトだった。

「いつか」ブレンヒルトは顔をあげ、頭上のジークフリートの双眸を覗き込むようにして呟く。「いつか、聞かせてくれる? あのとき、何があったのか」

「いいだろう」ジークフリートは頷き、答える。その双眸には何処までも真摯な色が浮かんでいた。「キミがそれを望むなら私は墓の中まで持っていくつもりだったあの日のことを言葉にして紡ごう。それでいいかね? ブレンヒルト・シルト君」

 知らず知らずのうちに涙をたたえた目を細め、ぎこちない笑みを作ったブレンヒルトは頷き、一言。

「有り難う、ジークフリート。それから出来れば私のことはナインと。もう、その名で呼んでくれる人は誰もいなくなってしまったから――せめて、貴方だけでも」

「解った――――ナイン」

「有り難う」彼の口から自分の名を耳にしたブレンヒルトは、ぎこちなさの消えた笑みを。

「それから、最後にお願いが」

「なんだろうか」

「私がこの場所に来てからずっと弾いてくれていたオルガン」少しだけ恥ずかしそうにブレンヒルトは言う。「今度、私の前で弾いてくれない? その、…………あのときのように」

「――――判った」

 姉さん。

 ブレンヒルトは思う。姉さん、あの時姉さんが言ったように皆が一緒になれる日はこなかったわ。でも。

 でも、また、あの日のように彼のオルガンは聞けるようになるの。それでいいのよね? 姉さん。



 やれやれ。

 部屋の隅で狸寝入りを決め込み二人のやりとりを見ていた黒猫は押し殺した溜息をついた。一時はどうなるかと思ったけど、どうやら収まるところに収まったみたいだ。

 本当にやれやれ、だね。でもまぁ、良かったね、ブレンヒルト。これで少しは彼とも上手くやっていけるだろう。随分と時間がかかちゃったけど、その分、きっと報われるさ。

 それに――――

 これで僕の後ろの貞操も大丈夫だろうし。まさかことのきっかけを作った僕のことをブレンヒルトも無碍には扱わないだろう――多分。



 それからしばらくして、ジークフリートの奏でるオルガンの音色に聞き入るひどく楽しそうな表情のブレンヒルトの姿が何人かの生徒に目撃された。口さがない一部の生徒たちが二人の関係をあれこれ邪推したが、すぐにそれも止んだ。一部ではブレンヒルトが実力を行使して止めたといわれているが正確なところは関係者がすべからく口をつぐんでしまっているのは不明だった。

 同様に、黒猫が後ろの貞操を維持できたかどうかも不明である。




――了――



 
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