気が付くと、遠野志貴は見知らぬ場所に立っていた。

 空を見上げれば、異様なほどに大きな満ちた月が視界に飛び込んでくる。

 と、そこで志貴は自分が立っている場所が、見知らぬ場所ではないことに気が付いた。

「あー、そういえばアルクェイドといっしょに昼寝したんだっけ」

 そうだったそうだった、と志貴は頭を掻きながら思った。つまるところ、アレだ。自分はまたぞろあのお姫様の夢の世界に来たわけだ。

迂闊に一緒に寝れんなぁ。そうぼやいて、志貴は天を覆うようにしている月を見上げていた視線を降ろした。足元に広がるのは、降り注ぐ月光を浴びて儚げに白く淡く輝く一面の花畑。なかなかに幻想的な光景だった。とてもではないが、吸血鬼のくせにやたら滅法おひさまの似合うアルクェイドの夢の世界とは思えない。そこまで考えて、志貴は苦笑を浮かべた。

 確か、アレは言っていなかったか? これはアルクェイドの悪夢の具現だと。ならば、この夢の世界がアルクェイドに似合っていないのも一つの道理なのかもしれない。

 志貴は、苦笑を浮かべたまま、踏みにじるには少しばかり躊躇いをおぼえてしまう純白の花の絨毯に歩を進めた。

「さて、またあのつっけんどんなお姫様に殺されて帰るとするか」

 痛いのは厭なんだけどなぁ、と志貴はぼやきながら、姫君の待つ薄ら寒い城へと向かった――が、

「ふむ。ひさしいな、人間」

 今回はどうも勝手が違ったようだ。志貴の背後からやたらと偉そうな声が飛んできた。むぅ、今回はお出迎えの上惨殺ですか。覚悟をきめる暇もないじゃないか、と文句の一つでも言ってやろうと志貴は振り返り――――目を丸くした。

「――どうした、なにを間抜け面を晒しておる?」

 なんというか、お姫様は縮んでいらした。




ろり−つき




「えー、あー、フーアーユー?」

 軽く混乱した志貴は、ばりばり日本語発音の英語で思わずそうたずねていた。ちなみに、志貴は勉強はできないというわけではないが、とりたてて英語が得意というわけでもない。おそらく、いきなり道でガイジンさんに声をかけられたら右往左往してしまうことは間違いない英語力しか持ち合わせていない。そんな志貴が思わず英語を口にしたということから、彼がどれほど混乱しているかが窺い知れる。

「前にも一度名乗ったはずだが? その程度のことも覚えていられるのほどに頭が弱いのか?」

 うわ、なんか馬鹿にされた。

 志貴は軽いショックをうけた。つーか人のオツムの出来を云々する前にいきなり縮んでるテメェの非常識さをどうにかしやがれコンチクショウ。思わずそうツッコミそうになったのをグッと我慢して、志貴は自信なさそうにたずねた。

「えーと、〈朱い月〉……だっけ?」

「ふむ。確かに妾はそう名乗ったな。なんだ、覚えておるではないか。アレの良人が愚図でないと判って嬉しいぞ」

 うわぁ、偉そうなのに加えてさりげなく口が悪くなってませんかこのおひめさま。志貴は露骨に顔をしかめた。志貴の目の前に立つのは、自分の思い人であるアルクェイドの面影を多分に残した幼女であった。幼くはあるが、神造の美と評しても過言ではないその容姿は健在だ。アルクェイドと違い、踝のあたりまであろうかと思われる長い金髪は、月の朧げな光をきらきらと反射して彼女にこの世のものとは思えない美しさを与えている。纏っているドレスは、周囲の花畑、あるいは天に浮かぶ月と同じ、一切の穢れのない純白。ただし、かつてみそれよりもスカートの丈が短くなり、ドレスとおそろいの白い厚手のストッキングで覆われた足が、膝小僧のあたりまで露出している。黙っていれば、良家のお嬢様といった風体だ。だが、

「む? なにを黙って阿呆のように惚けておる? ひさしぶりに来たのだからなにか面白い土産話でもせぬか」

 めちゃめちゃ口が悪いのが先にあげた点をまとめて全部ダイナシにしている。ある意味、黙っていれば超が頭に五〜六個つくほどの美人なのに口を開いた途端にあーぱー呼ばわりされる志貴の思い人と共通しているといえなくもない。つーかそんなとこ共通せんでもええわい。

「あーその、なんだ。もちっと口の利き方はどうにかなんないのか?」

 勿体無いぞ、と志貴が言うと、幼女なお姫様は、莫迦を見るような目で彼の顔を見て、

「たわけ。何故に妾が下郎に合わせて口の利き方を変えねばならぬ」

 と傍若無人もはだはだしい台詞をのたまった。流石に、これには志貴もかちんときたらしい。こりゃあ、大人としてひとつお仕置きの一つもくれてやらねばなるまい。志貴は決意した。彼は憤然とした顔を作りながらずんずんと〈朱い月〉に向かって歩き始めた。

 そんな志貴を、〈朱い月〉は面白いものを見るような目で見る。

「どうした? 腹でもたてたか? して、この〈朱い月〉相手になんとする?」

 絶対的な優位を確信したものだけに許される余裕を、その幼くはあるが端正な顔に浮かべた〈朱い月〉は、自らの器が良き人と定めた人間に、面白そうにたずねた。吹けば飛ぶようなただの人間が、何をしようというのか。暇を持て余していたらしい彼女にとって、ちょっとした余興のようなものだった。

 そんな彼女に暇潰しの糧あつかいされた志貴は、無言のまま歩み寄り、ついには息を吸う音すら聞き取れそうなほどにまで近付く。見れば、頭二つ分ほど背の低い姫君は、さぁどうした、と言わんばかりの顔でにやにやと笑いながら彼の顔を下から覗き込んでいた。

 が、そんな〈朱い月〉の余裕もそこまでだった。次の瞬間、彼女は驚きに目を大きく見開いた。

 魚屋の軒先からメザシをかっぱらう野良猫のような素早さで、志貴が自分の唇を用いてこちらのそれを塞いできたのだ。ありていに表現すると、接吻された。口吸いでもいい。しかもめっさディープ。

「〜〜〜〜〜〜!?」

 数寸間を置いて、自分が何をされているか理解した〈朱い月〉は顔を茹で上げた蛸のように真っ赤にして無礼にも自分の唇を貪っている志貴のことを、突き飛ばそうとするが、

「!?」

 それに感づいた志貴は、〈朱い月〉が行動に出るよりも早く、彼女を抱かかえるようにして体ごと拘束することで、彼女の動きを封じた。本来ならば、圧倒的な膂力でもってそんな志貴の拘束の一つや二つ、彼の体を引き千切ることでやすやすと振りほどくことができるはずなのだが、あるいは、ひさしぶりに訪れた暇潰しの相手をあっさりと帰してしまうことに無意識のうちに抵抗を覚えていたのだろうか、〈朱い月〉は志貴の拘束を振りほどくことが出来なかった。

 まぁ、〈朱い月〉が志貴にされるがままになっている理由はおいておくとして。

 志貴の口付けは、ディープで、やたらと長いものだった。はじめは、溶け合わせんばかりに唇を重ねているだけだったが、やがてそれだけでは飽き足らなくなったらしい。志貴は、その舌を〈朱い月〉の口内に侵入させ、そこを好き勝手に蹂躙しはじめた。

 歯の裏を、頬の内肉を、そして舌を、侵入してきた志貴の舌が委細構わず陵辱する。そのことに、目を向き、はじめは彼の腕のなかでばたばたと暴れていた〈朱い月〉だったが、一切の容赦を排した志貴の陵辱の前に、次第に大人しくなっていく。

 淡い月明かりに照らされた純白の花畑に、舌と舌が絡み合う淫猥な水音だけが静かに響いていた。

 はたして、どれぐらいそうしていただろうか。

 肺活量が限界を迎えたらしい志貴が、ようやくのことで〈朱い月〉の整った唇と蠱惑的な口内を陵辱をやめ、そこから自分の唇を離す。途端、彼は貪るようにして肺腑に酸素を取り入れた。よほど苦しかったらしい。苦しいならさっさとやめろといいたいがそこはそれ。

「――――なんのつもりだ、」

 人間、――そう<朱い月>は剣呑な口調で志貴を問い詰めようとし、凡てを口にする前に、びくりと身を竦ませた。

 志貴の片手が、彼女の尻を揉みしだいていた。

「な、ななななな、何をしておるかこのたわけ!?」

 自分を腕に抱き、唇を奪い、あまつさえケツを揉んでいる志貴に、〈朱い月〉は怒りからかはたまた羞恥からか顔を紅潮させながら怒声をあたりに響かせた。一方、怒声を浴びせられた志貴はというと、至近で大声を出されたためか、少しばかり顔をしかめたものの、抱えあげるようにしてその腕に抱いた〈朱い月〉を解放することもなければ、ケツを揉みしだく手を止めることもなかった。馬耳東風、馬の耳に念仏とはこうした態度の事をいうのであろう。

「何をしてるかと……あふぅ……い、言っておる! このたわけ!」

 そんな志貴に、少しばかり艶を含んだ声で再度怒鳴る〈朱い月〉。もっとも、怒鳴られた志貴は、そんな声で怒鳴られてもなぁ、と大して気にしていない。ひたすら、手のひらから伝わる〈朱い月〉の小ぶりな臀部の感触を愉しんでいる。性欲魔神モード発動。

「う、ふぁ――、この、聞いておるのかエロガッパ!!」

 何処でそんな言葉覚えたんだ。そう思いながらも、志貴はとりあえず〈朱い月〉の問いに言葉を返すことにした。

「うーん、そうだなぁ……おしおき?」

 それもエロい。

「――仕置き?」

 返って来た問いに、〈朱い月〉はしばしケツを好き勝手揉まれていることも忘れぽかーんとした表情を浮かべる。だが、すぐに顔をいからせて罵声を飛ばす。

「た、たわけ! なぜ妾が人間ごときに仕置きされねばならん!? というかなんの仕置きだ何の!?」

「そりゃあ、決まってるだろ」相変わらず<朱い月>のケツを揉みながら、志貴は呆れたように言った。「口が悪いことの、だよ。せっかく可愛いんだから、そういう言葉使いをしちゃ、駄目だ」

「な――」志貴の放った不意をつく言葉に、〈朱い月〉は言葉を失う。「た、たたたたたわけ! 何を言っておるそのほう脳に蟲でも湧いたかこのたわけ!」

「だからそういう言葉使いが駄目だって言ってるのに」

 こりゃあ、もっとお仕置きだな――そう呟くと、志貴はケツを揉みしだいていた手を、

「ひゃう!?」

〈朱い月〉の股間に伸ばした。上等な生地で覆われたそこに触れた志貴の指先の感覚に、〈朱い月〉は、詰まったような奇妙な声をあげた。志貴は、そんな〈朱い月〉の反応に満足そうに笑みを零すと、〈朱い月〉の手触りのよい――あるいは肌触りの良い――布で覆われた股間を撫でるようにして弄り始める。

「た、たわ――ひゃあ!? この、たわけ! なに……く、あぁ」

 フトモモの付け根に近い部分を、軽く撫でるようなタッチで触れてくる志貴の手に、〈朱い月〉は抗議と嬌声を交互に零す。そして、その比率は、むしろ淡々とした調子で続けられる志貴の指の動きが続けられるにつれて、次第に嬌声のほうに傾き始めていく。

「――もう抵抗しないのかい?」

 志貴の腕の中で、何時の間にか大人しくなってしまった〈朱い月〉に、彼はからかうような調子でたずねた。抵抗できなくしておいてこの言い草、たいした悪党ぶりではある。一方、底意地の悪い言葉をかけられた〈朱い月〉はというと、

「く、ふぁ、ん――た、わけ。いい加減に……ん、あう?」

 辛うじて、口先だけで抵抗してみせるのみであった。もっとも、志貴の、くすぐるような愛撫に腰をもじもじとさすっていながらの言葉であるので、まったくもって説得力の欠片も無い。そんな〈朱い月〉の様子に、頃は良し、と志貴は小さく頷く。すでに、指先から感じ取れるショーツの様子は、雨にでも降られたような有様になっている。確かに、本格的に嬲るには充分な頃合といえた。では、早速――

「ひ、ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

〈朱い月〉の愛らしい、小ぶりな口から、悲鳴にも似た嬌声が漏れた。

 ぐっしょりと濡れたショーツが、張り付くようにしているために、布地の上からでもそうと判るほどに痛々しく勃起した小さな肉豆を、志貴の指先が摘み上げたのだ。彼の指先に、濡れた布越しにこりこりとした弾力の在る感触が伝わる。

「ひ、や、やめ、やめよ!! やめぬかたわけ!!」

 小さな体を志貴の腕の中でがくがくと痙攣させながら、〈朱い月〉は取り乱したふうに叫ぶ。焦らすような愛撫が延々と続いたあとで、それがもたらす快感によって過敏になっていた肉豆をいきなり弄られるのは、あまりに刺激が強すぎた。

「うーん、そうはいってもなぁ」

 どこかとぼけたふうに、志貴は〈朱い月〉の言葉を右から左に聞き流す。

「ほら、こんなに濡らしておいてやめるもないもないだろ?」

 言って、志貴は肉豆を苛めることをやめ、ぐっしょりと濡れたショーツの上から、〈朱い月〉の幼い秘裂を弄り始めた。長時間の愛撫によって、まるで志貴の指を求めるかのようにひくひくとひくついているそこを、布越しに、とはいえ容赦のない調子で掻き回す。志貴の指が動くたびに、淫猥な水音が盛大に響く。

「ひぁ、あ、あぁ、や、ひきゅぅ!? や、やめ、ひぁぁぁぁ!?」

「口では厭だって言っておいて、ここをこんなにしてちゃあ、説得力ないよ」

 あるいは、平素、日常生活に置いて周りに存在する女性陣からいいようにされていることのストレスからか、志貴は随分と加虐的な口調で〈朱い月〉を嬲った。もっとも、その言葉が彼女に届いていたかは、はなはだ疑問である。いまや志貴の腕の中であられもなく嬌声を零し痴態を見せる〈朱い月〉に、志貴の言葉を理解できるだけの余裕があったとは思えない。

 とまれ、いい加減前戯に興じるのも飽きてきた。志貴は〈朱い月〉がいい具合に出来上がっていることもあって、このあたりで愛撫で彼女を弄ぶことに終わりを告げることにした。志貴は思う。とりあえず、その前に一回イカせておこう。

「ひ、ひゃ!? あ、あ、きゃひぃぃぃぃぃ!?」

 急に激しさを増した志貴の愛撫に、〈朱い月〉は彼の腕の中で悶え狂う。そして、彼女の快楽のボルテージが最高潮を迎えたのを見透かしたように、志貴がその肉豆をショーツの上から思い切り捻り上げると、

「あ、ああ、あああ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 切なげに啼いて〈朱い月〉は絶頂を迎えた。その様子をみて満足そうに顔を緩めた志貴は、不意に鼻をつくアンモニア臭に気付き、わずかに顔をしかめる。視線を下に落とすと、純白の花の絨毯に、次々と水飛沫が落ちているのが見えた。もちろん、愛液ではない。絶頂の瞬間に弛緩した〈朱い月〉が失禁していたのだった。

 ただでさえ、泉のように湧き出る愛液で濡れていた彼女の内股は、いまは僅かに黄ばんだ液体でびしょびしょになっていた。志貴は苦笑しながら拘束していた〈朱い月〉をゆっくりと解放する。ぐったりとした〈朱い月〉は、崩れ落ちるように花の絨毯の上にへたりこみ、やがて、うつ伏せに倒れこんだ。

 絶頂の余韻か、はたまた人前で下着をつけたまま失禁したことのショックからか惚けたように放心している〈朱い月〉の姿に、志貴は喩えようも無い背徳的な欲望を抱く。初めてまぐわう女の尻の穴をいきなり犯したり、たとえ契約に必用だとはいえ幼女と行為に及んだりすることから判るように、遠野志貴という男に、性的なタヴーというものは在って無きが如し、といったところだった。そんな志貴から見て、今の〈朱い月〉の姿は、どうにも股間を刺激してやまない存在だった。

 志貴は、その欲求に突き動かされるまま、〈朱い月〉の後を取ると、うつ伏せになり荒い息を繰り返している彼女のスカートを捲り上げ、愛液と小水で汚れた彼女のショーツに覆われた部分を月光のもとに曝け出した。ショーツ越しにも判る、時折ひくついた動きを見せる〈朱い月〉の陰部の艶かしさに志貴はぐびりと喉を鳴らせる。

 志貴はいそいそとベルトを外し、ズボンのホックを外し、チャックを下ろし、ズボンをトランクスごと引き下げると、すでに剛直している自分のものを外気に晒した。乱暴な動きで、〈朱い月〉の折れそうな細い腰に手をかけると、自分の腰の高さまで彼女の尻を持ち上げる。もとより身長差があるので、〈朱い月〉は不自然なほどに腰を持ち上げられる形になるが、今の志貴はそんなことに構っていられない。指先で彼女の秘部を覆うショーツをずらし、線のような秘裂を視界に納めると、そこに剛直したものをあてがう。

「ひっ!? おぬしなにを――」

 流石に、その感触に気付いたのか〈朱い月〉が怯えたような声を漏らすが、すでに遅かった。

「ひぐぅ!?」

 ずん、と容赦のない動きで剛直をその中に叩き込まれた。途中、ぷちぷちと何かが裂けるような感触があったが、一気に奥の奥、子宮口を殴りつけるような勢いで挿入された今の〈朱い月〉には、それが処女膜が破られた証左だと気付く暇もなかった。

「あ、あ、あ、あ――――」

 とろとろに濡れてはいるが、幼く、また、酷く狭い肉壷を一気に貫かれた〈朱い月〉は酸素を求めて水面に口を出す金魚のように口をぱくぱくと開き、だらしなく舌を覗かせた。目尻には涙さえ浮かんでいる。腹部を襲う猛烈な異物感が、容赦なく彼女を苛む。だが、志貴はそんな彼女をさらに責める。一拍間を置いて、志貴は激しく腰を振り始めた。結合部から一筋、赤いものが流れ出たことから、〈朱い月〉が初めてだと知れたが、内心で猛り狂う雄としての本能に支配された今の志貴には、彼女を気遣う余裕など欠片も存在しなかった。

「ひっ、あっ、ひぐ、あ、あ、あ――――」

 一片の手加減のない志貴の突きに、〈朱い月〉は、その小さな肉壷を抉られ、あるいは子宮口を荒々しく叩かれるたびに、艶と、苦悶がない交ぜになった雌の声をその愛らしい口から零す。

 志貴にとって、その声が、態度が、そして酷く狭いくせに異常なまでにすべりの良い肉壷が――〈朱い月〉の存在自体が、彼の快楽を押し上げる要因となった。結果、志貴は熱に浮かされたように、ひたすらに腰を振る。その動きは、ここ数ヶ月でやたらと上達した技巧などかけらも存在しない、荒々しいものだった。

「おく、おく、たたかれて、ひぐぅ!? や、は、あ、あ、ああ――」

 そんな荒々しい責めに苛まれる〈朱い月〉もまた、真祖の王族としての自覚などどこかに消え失せたような、本能のままに生きる一匹の雌のような姿を晒している。

 月光のもとで交わされた雄と雌の交歓は、そう長くは続かなかった。

 直前に絶頂を向かえていた〈朱い月〉は感度が必要以上に高くなっていたし、志貴は志貴で、あまりに具合の良すぎる〈朱い月〉の肉壷の前に、耐久度が覿面におちていた。結果、

「く、で、出る――――!!」

 志貴の限界が訪れた。ことさら強く〈朱い月〉に打ち込んだ瞬間、その最深部に、白濁とした、液体というよりも塊といったほうが適切な粘度の高いものを大量にぶちまける。そして、その感覚に、〈朱い月〉も二度目の絶頂を迎える。

「あ゛ーあ゛ーあ゛ーあ゛ぉぉぉぉぉぉぉぉあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあ゛ぁぁぁぁぁぁぁ――――」

………………

…………

……

「いや、その、悪かったって」

 志貴はほとほと困っていた。情けない顔で、自分に背を向け花畑に腰を下ろしている〈朱い月〉に頭を下げる。正直、彼女の中に精を放ってしばらくたってから正気に戻ったさいに、自分でもやりすぎたと思っていた。欧米圏では狂気のことをルナティックと表現すると聞くが、そういう意味では確かに、この月は彼を狂わせた。むろん、それで許されるとはかけらも思っていないが。

「この通り!!」

 花畑に頭を擦りつけるようにして、志貴はもう一度頭をさげた。と、

「――頭をあげよ、下郎」

 冷え冷えとした声が頭上から降ってきた。うわ、こりゃ許してもらえそうにもないな――内心でそう思いながら志貴は顔をあげ、

「――――え?」

 間の抜けた声を出した。

 顔をあげた次の瞬間、彼の胸に深々と〈朱い月〉の華奢な腕が刺さっていた。次いで、それは彼の体を引き裂いた。急激に意識が遠退くのを知覚する。消え良く意識の中で、

「――――――――」

 彼は〈朱い月〉の言葉を耳にした。



「――ってうわぁ!?」

 珍妙な悲鳴をあげながら、志貴は体を撥ね起こした。次の瞬間、あたりを見渡す。花畑は霧散と消え去り、視界には、何時ものアルクェイドのマンションの一室、その風景が映っていた。

 ふぅ、と一息ついて視線を落とせば、自分の足を枕にアルクェイドが寝息を立てていた。志貴は苦笑をひとつ零す。なんとまぁ、気持ち良さそうに寝ているお姫様か。彼は小さく寝息をたてているアルクェイドの頭を優しく撫でると、溜息をついた。夢の中で最後に聞いた言葉を思い出す。

 ――また来るがよい、人間。

 これはあれか。志貴は思った。許されたと考えていいのだろうか。せめてその言葉を放ったときの表情のひとつでも見ていれば確信がもてるんだがなぁ。

 もう一度溜息。

 とまれ、今度あそこに言ったらいの一番に頭をさげよう。なんたって、彼女は今ここで寝息を立てているお姫様の一部なんだから。彼女がどういおうと、自分にとっては、そうなのだ。夢の中でしか在る事ができないのならば、せめて自分だけでも――――


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